『天地明察』の宮崎あおい「役に侵略されていくけど、それも楽しい」
滝田洋二郎監督が、2009年の第81回アカデミー外国語映画賞受賞作『おくりびと』(08)以来、4年ぶりに監督した『天地明察』(9月15日公開)で、ヒロイン役を好演した宮崎あおいにインタビュー。岡田准一扮する主人公・安井算哲は、挫折を繰り返しながら、日本初の暦作りに尽力した実在の人物で、宮崎は算哲の心の拠り所となる妻・えん役を演じた。宮崎が、現場での撮影秘話から、女優業への思いについて語ってくれた。
本作は、2010年本屋大賞を受賞した冲方丁のベストセラー小説の実写映画だ。まず、一番最初に脚本を読んだ時の印象について尋ねると、「星や暦とかの説明が、文字だけだと少し難しいなと感じました」という。でも、完成した映画を見て、その思いは一新された。「できあがった映画では、ちょうど良いバランスで星などの説明がされていて、見ているお客さんを置いていかずに、ちゃんと連れて行ってくれる作品になっているなと思いました」。
そして、彼女が何よりも惹かれたのは、いろんな人に支えられながら、夢を叶えていく算哲の物語だ。「算哲さんには、みんなで支えたいと思わせる母性本能をくすぐる何かがあって、だからこそ、みんなが力を貸してあげようと集まってくるんだと思いました。時代劇ですが、むしろ女性は、こういう話を好きだと思います」。
自分が信じる道を真っ直ぐに突き進んできた算哲だが、宮崎も女優道をしっかりと歩いてきたのは周知の通りだ。彼女が、女優という仕事に魅せられ続ける理由とは?「日常生活で、自分の感情としっかり向き合わなきゃいけないことって、そんなにない気がするんです。見て見ぬふりができるというか。でも、お芝居をする時はちゃんと向き合わなきゃいけないし、今まで抱いた、いろんな嫌な感情の引き出しまで開けて、それを提示しないといけない。そういう意味では、しんどいと言えばしんどいんです。でも、何か素敵な瞬間が生まれた時の現場の空気感や、良い映画ができあがった時のみんなの嬉しそうな顔、一つになった瞬間が楽しくて、続けている気がします」。
「嘘がつけない」と語る宮崎は、「役柄を作っていくという感覚がないんです」という。「どんな役を演じている時も、感覚としては、その役として物事を考える、思考回路自体がその人になるんです。だから長い間、関西弁の役をやっていると、考える時も関西弁になるし、内側に役がどんどん入ってくるんです。それが入ってこられすぎると、本当の自分が感じていることや、考えていることが、うまく表現できなくなってくる時もあります。昔の方がもっと器用で、役を引きずらなかったけど、どんどん年を重ね、経験が増えていくと、怖いことも、できないことも増えていく気がします。どんどん役に侵略されていきますが、それが楽しかったりもするんです」。
近年、内助の功を体現した妻役がしっくりとはまった宮崎だが、殺人鬼やとんでもない悪役に扮した彼女も見てみたい。そのことをリクエストすると、彼女自身も「私もやりたいです。そういうお話をいただけたらなって思ってはいるんですが」とのこと。悪役については「全然、抵抗はないです」と力強く語る。「むしろ、そういうお芝居をして、『あの人、嫌い!』って思われるのって、演者として正解じゃないですか。お芝居をしているなかで、どうこう思われることには全く抵抗はないです。だから、やってみたいですね」。
自分が信じた道を突き進む算哲に寄り添ってきたえん。年々、器用でなくなっていくと語る宮崎だが、経験値が増えていくにつれ、役には陰影が出てきて、見る者により深みを与えていく。作品を見る度に、もっともっと彼女を見たい、そう思わせる女優・宮崎あおいを今後も追っていきたい。【取材・文/山崎伸子】