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気分はポール・マッカートニー!ノア・バームバック監督が『Frances Ha』で原点にカムバック

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気分はポール・マッカートニー!ノア・バームバック監督が『Frances Ha』で原点にカムバック

生まれ育ったニューヨークのブルックリンを舞台にしたドラマ『イカとクジラ』(05)で、第78回アカデミー脚本賞ノミネートのノア・バームバック監督が、久々にブルックリンを舞台に描いたモノクロ映画『Frances Ha』が、第50回ニューヨーク映画祭で公開され、ノア監督とグレタ・ガーウィグ、ミッキー・サムナーが登壇した。

舞台は、若者の間で今、ニューヨーク中で最もホットな場所ブルックリン。バレエダンサーとして大舞台に立つことを夢見ながら、なかなかうまくいかないフランシスと、彼女を取り巻く奇妙な友人関係が実に巧妙なタッチで生き生きと描かれている。

ロサンゼルス・ベースの映画『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』(10)で脚本と監督を手がけ、『ファンタスティック Mr.Fox』(09)、『マダガスカル3』(12)の脚本を手がけ、久々にニューヨークに戻ってきたノア監督。『アーティスト』(11)が久々にモノクロ映画でアカデミー賞を席巻したのは記憶に新しいが、興行成績が望めないため、製作にこぎつけるのが難しいと言われているモノクロ映画にチャレンジしている点も興味深い。

「『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』では、ロサンゼルスが舞台の映画を撮りたいと思って作ったんだ。ロスは大好きな場所なんだけれど、一方でよそ者であることも感じたんだ。『Frances Ha』を撮ることで、自分が生まれ育ったニューヨークに対する思いを再認識したかったんだろうね。どれだけ自分が好きな場所かということをね」。

「自分でもモノクロ映画が撮れると思わなかったんだ。でも、モノクロはもっと自分のフィーリングを表現できると思っていた。モノクロの方が芸術色が強いし、よりシネマティックでロマンティックになるんだ。原点に立ち返った時に、昔だったら技術的に無理だったことを実現させたのもあるし、別の方法で映画を撮ってみたいという思いもあったんだ。これまでの作品より予算は少ないけれど、より自分の哲学に近い作品ができたと思っている。『ポール・マッカートニーが、ビートルズ解散の後に出したアルバムみたいなもの』とたとえているんだけれど、地下室で作った曲は、家族とか近しい人たちを交えて、より親密なものに仕上がっているし、彼の原点に立ち返ったものになった。手作りでありながら、ポップアルバムの基本に立ち返った最高傑作だと思う」と、今作を製作するに至った経緯を説明してくれた。

同作で主役のフランシスを演じたのは、ノア監督作『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』(10)でタッグを組んだグレタで、共同執筆も手がけている。ノア監督とは離れた場所で別々に脚本を書いて、メールで情報を交換していたというグレタは、「フランシスは、ニューヨーク・シティ・バレエという晴れの舞台に立つことを夢見ながら、最終的にはもっと自分のアーティスト魂に近いところに立ち返っていくの。ファンタジーと現実っていう部分では、自分にも似ているところがあると思っているわ。脚本を手がけたことで、内容を知っているだけに、うまく演じられていないこともわかっちゃったりしたの。脚本を書いたことで演技の助けになると思ったら大間違いで、かえって演じるのが難しくなってしまった」そうだ。

同作でノア監督は、技術面だけではなく、ある新しい方法にチャレンジしているという。「俳優たちには完成した脚本を渡さずに、自分たちが演じるパートだけを読んでもらったんだ。俳優たちが、結末やターニングポイントを知ったうえで演技をすると、意識してしまって、かえって演じにくくなることもある。わからない方がその瞬間を演じることができて、観客もリアルなキャラクターに入り込めるから、全体を知る必要はないと思った」というノア監督の思惑通り、グレタもミッキーもこの新しい方法に戸惑いはなかったようだ。

そして、グレタはこの新手法に対し、「特に、今までと違う方法で演技をしたということはないわ。私はギターを弾くんだけど、ジョニー・キャッシュが、『僕はギターを弾く方法をこれしか知らないから、こうやって弾いているんだ』って言っていたとおり、いろんな方法を知らなくてもギターは弾けるし、演技もできる。私も自分なりの演じ方しか知らないから、私なりに演じたつもりだけれど、自分でもわからないわ」と語り、会場を笑わせた。

ニューヨーク映画祭ということもあり、メディアにもノア監督ファンは多い。ノア監督が原点に立ち返った、ブルックリンへの愛が詰まった同作は、「ニューヨークのマンハッタンをこよなく愛したウディ・アレン監督作『マンハッタン』(79)を彷彿とさせ、『Frances Ha』は2012年版『マンハッタン』だ」と批評家たちが絶賛するとおり、観客にとって新たな経験ができること間違いなしだ。【取材・文 NY在住/JUNKO】

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