小学生役にチャレンジした濱田岳、個性派のこだわりは「どんな時も自分らしく」
濱田岳は24歳にして個性派俳優と呼ばれる、何ともユニークな俳優だ。久保寺健彦の同名小説を映画化した『みなさん、さようなら』(1月26日公開)では、「一生、団地の中だけで生きていく!」と決心した風変わりな少年・悟役にチャレンジ。12歳から30歳まで、幅のある年齢の役を一人で違和感なく演じ切り、かめばかむほどに味が出るような、瑞々しい青春ストーリーを見せてくれている。そこで濱田岳を直撃!初のラブシーンの感想、盟友とも言える中村義洋監督との絆について聞いた。
ある出来事をきっかけに、“団地内引きこもり”となった少年・悟の成長を団地の歴史と共に描く本作。脚本を読んだ時の印象を聞くと、「最初は、不思議で切ない話だなと思ったんです。でも、いざ現場に入ってセリフのやり取りをしていくと、ただ団地から出られないだけで、とっても前向きだなって思って。早起きだし、運動もするし、就職だってする。悟は健康優良児ですよ」と話す。
12歳の小学生を演じることに不安はなかっただろうか?「最初は不安でしたよ。どうなっちゃうんだろうって。僕は声変わりもしているし、ヒゲだって生えますからね(笑)。でも、お母さん役の(大塚)寧々さんが、『岳ちゃんより老けた小学生を見たことがある。岳ちゃんの方が可愛いから大丈夫!』って言っていて(笑)。寧々さんも見守っていてくれるし、怒ってくれる先生も、子供に諭すように悟を叱ってくれる。全然意識していなかったんですけれど、そういう環境に入ると、自然と声色も高くなって、甘えん坊な気持ちになっていました。悟もみんなに支えられて成長していくけど、今回の濱田岳もそうやって、みんなに育ててもらったんですよね」。
友達との別れ、失恋など、あらゆる孤独や葛藤を力強く乗り越えていく悟。感じた魅力について、こう語る。「悟を見ていると、人の純粋さってものすごくパワーのあるものなんだなって思ったんです。あの脇目も振らない真っ直ぐさは、男の僕でも憧れるし、グッとくる。僕は男子校だったんですが、同性に好かれるヤツって、やっぱり異性からも好かれるじゃないですか。悟も団地一の変わり者なのに、ふたりの女性から好かれて、一人は婚約までしてくれる!それは悟の前に進む真っ直ぐな力が、彼女たちの心を打ったからだと思うんです」。
悟に心を寄せるふたりの女性を演じるのは、倉科カナと波瑠。ふたりが濱田のキャリアにおいて、初のラブシーンの相手となった。「悟が、波瑠さん演じる松島に部屋に呼ばれるシーンでは、僕もラブシーンが初めてだったので、『これからどんなことが起こるんだろう』ってドキドキでしたから。悟と濱田岳の緊張感がうまくシンクロしたんじゃないかと思います(笑)。ド緊張でしたよ!倉科さんも波瑠さんも、素敵で格好良い女優さん。作品が良くなるために、そういうシーンが必要だからって、覚悟ができてるんです。スタッフさんもしっかりと準備ができているし、『お前がちゃんとやれば成功するんだぞ!』と言われているようで、追い込まれた気がしましたね。中村組はこれまで5作も一緒にやってきた気心の知れた仲間なのに、初めてアウェイを感じました(笑)」。
そう語るように、濱田と中村義洋監督とのタッグは、『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)、『フィッシュストーリー』(09)、『ゴールデンスランバー』(10)、『ポテチ』(12)に続いて、今作で5回目となる。自身にとって、中村監督はどのような存在なのだろうか。「僕の9歳から24歳までのキャリアのなかで、やっぱり『アヒルと鴨のコインロッカー』という作品は欠かせない作品。今でもたくさんの人に『大好きです』と言ってもらえる作品で、これで僕を覚えてくれた人も多い。そもそも監督とは、気が合うんです。気が合うといっても、色々な種類があると思うんですが、僕はそのなかでも一番上にあるのが、笑いのツボが同じ人だと思っていて。笑いのツボが同じだと、感性が近いのかな。『アヒルと鴨のコインロッカー』の時も、毎日ゲラゲラと笑っていたし、とにかく中村組の現場は楽しくてしょうがないんです」。
「言葉が要らなくなってきた」と言うほど、中村監督も濱田に絶大な信頼を寄せている。「『アヒルと鴨のコインロッカー』の時だったら、監督から『岳が演じている彼は多分、こういう感情だと思うんだけど、岳はどう思う?』と聞かれることがあったんです。でも今回、5作目ともなると、『もう一回!』、その一言だけになる。言葉が要らなくなってきたんだなと。今、冷静になって考えてみると、それってすごい嬉しいことだなと思うんです。そんな関係が築ける監督ができるなんて、思っていなかったですから」。
『はじまりのみち』(6月1日公開)、『俺はまだ本気出してないだけ』(6月15日公開)をはじめ、今年も続々と出演作が公開される濱田。引っ張りだこの人気となっているが、理想の役者像を聞くと、「細く長く頑張っていけたら良いですね。僕、欲がないんですよ」と照れ笑いを見せた。「ただ、出来上がったものを見た人が、『この役は濱田岳以外では考えられないね』と思ってくれるくらいのパフォーマンスを見せたい。そして、どんな時も濱田岳らしくありたいですね。僕は両親から、『人からどう見られようが、あなたはあなたらしくて良いんだ』って育てられて。だからこそ、クライマックスでの悟のお母さんの言葉にも、ものすごくぐっときたんです」。
悟役は、濱田岳だからこその面白みと温かみあふれるキャラクターに見事に仕上がった。“真っ直ぐな人”にこだわって描き続けてきた中村監督の真骨頂ともいうべき本作で、是非とも彼の魅力を堪能してほしい。【取材・文/成田おり枝】