『ライフ・オブ・パイ』アン・リー監督「私たちはストーリーを信じる必要があるのです」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『ライフ・オブ・パイ』アン・リー監督「私たちはストーリーを信じる必要があるのです」

インタビュー

『ライフ・オブ・パイ』アン・リー監督「私たちはストーリーを信じる必要があるのです」

第85回アカデミー賞11部門ノミネートで、1月24日には世界興収が5億ドルを突破、1月25日に初日を迎えたアン・リー監督初の3D作『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』(公開中)は、オープニング3日間で興収4億1556万1800円を記録、客層は男女半々の学生層からシニア層まで幅広い客層を取り込み、幸先の良いスタートを切った。今回、本作の根幹部分についてアン・リー監督に話を聞いた。

――冒頭から動物園の動物や鳥や植物など、非常に色彩鮮やかで魅せられました。3DやCGといった現代の技術だからこその映像だと思いますが、映像として見せるうえでもっともこだわった部分はどこでしょうか?

「海は特に3Dでの表現法だと考えています。海を砂漠として考えたいと思いました。人が道に迷って途方に暮れる砂漠のようなものです。聖書に書かれているように、砂漠は人が試練を受ける場所で、宗教的なところもあります。それに、海を感情としてとらえることもできます。海は、人の気持ちを映像で表現するものです。心の中の感情を見せようと思ったので、パイの気持ちに基づいて海の見かけを作り上げました。その動きは、パイの動機や感情を反映しています。空や雲など水以外のものはどれも神とか天、死といった要素を象徴しています。でも、水を見るとそれは感情を表わしているように見えます。単にコンピューター合成の画像という見方はしていません。私としては、海を人の感情を映像化したものとしてとらえたいと思いました。この映画はそういう奥のものを見抜くところがあって、とても難しいかと思いますが。でも、気持ちを映像化して見せたことで、助けになっていると思います」

――ニューヨーク映画祭での会見も聞かせていただきました。本作の表面的なところは、パイとリチャード・パーカーのサバイバルですが、決してそれがメインではなく、パイの内面的な心であったり、スピリチュアルな面、宗教や哲学が根底にあると思います。監督が本作で一番語りたかったことを聞かせてください

「これは幻想を描いたストーリーです。前半はサバイバルが中心なので幻想的なところはありません。何もかも実際的なもので、手で触れられるようなもの、道理に合ったものにしなければなりません。サバイバルする理由が必要です。ですから、旅の前半部分はとても行動的で、ドラマティックなものです。後半では彼がそういうものをやり遂げた後なので、仮想的なものに入って行きます。彼が信じなければならない信念や相手にしなければならない幻想、どうやって正気を保つか、彼はそういうものを相手に苦闘します。そういったもっと精神的な、雰囲気を重視したものになります。映画が見せるのはもっと抽象的なものです。これが彼の旅ですが、何よりも幻想の力がストーリーテリングの中心となって、最後には人生の意味にたどり着きます。そうでなかったら、ただ旅を続けるだけでは意味がありません。私たちはストーリーを信じる必要があります。証明できないようなことを信じなければなりません。思い切って信じてみるんです。お互いに物語を語り合えば、寂しくないし、正気を失わずにいられます。原作のそういう部分を大事にしました」

――映画化する経緯や困難だったことを教えてください

「4、5年前にフォックスがこの題材を持ってきました。それでどうやったら映画にできるかを考え始めました。映画には二面性があって、技術的な金銭的な一面と、芸術的、哲学的な面があって、この2つは決して一つにはできそうもなかったんです。道理が通らず、解決方法がわかりません。フィルムメイカーとしては、どのように映画化するかが挑戦でした。この悪魔にどう対処するかを考え出し、初めにストーリーを組み立てる人を見つけなければならないと思いました。そこで、年をとってからのパイに物語を語らせ、自分が見ているものを吟味する第三者の観点を入れました。同時に、同じ人、若い時のパイがその旅を経験するので、感情と観点の両方が手に入ります。この部分が最初の難題でした。もう一つは3Dです。同じような考え方で、2Dでは映画は作れないと考えました。でも、次元をもう一つ増やして3Dにすれば、第三者の観点を手にできるから、作れるかもしれないと思いました。『アバター』(09)が公開されるより9ヶ月も前のことなので、自分で考えているものが具体的にはよくわかっていませんでした。ただ、3Dは新しい映画言語になると想像していました。新しい技術、新しい映画言語を使えば、可能性を広げ、第一の観点、第二の観点を手にできると思いました。それから、水のシーンでのテストをやって、3Dで水を扱うと全く違う感覚が手にできるので、太平洋を漂流する体験が映画にできそうな気がしました。その後は、どうやってうまく撮るかを一つ、一つ学びながら進めていきましたが、これはまた別のとても長い話です。3Dは新しい芸術的な手段で、単なる映画のトリックではありません」

――本作には有名なキャストが出ていませんが、素晴らしい人選でした。キャスティングの秘訣はありますか?

「ハリウッドは最大の配給組織で、単に最大級の映画を作っているだけではありません。最大の配給イデオロギーで世界各地に広がっています。主流映画にとって世界に共通する言語でもあります。ですから、そこで働くには、大統領が方針を説明するのと同じように、人々に物事をはっきりと理解してもらい、同時に自分のやりたいことは秘密に、もっと深いレベルに挿入すれば良いのです。まだ東洋式のやり方を維持するチャンスはあると思いますが、ただ事場で説明をする必要があります。映画製作のスキルはコミュニケーションにかかっています。説明を念入りにすることです。私のアドバイスは、そういう意志の伝え方を進んでやるべきという点です。そうしないと単に怒ってばかりいる監督になってしまいますから。一つ付け加えさせてください。必ずしもハリウッドに行かなくても良いのです。とても面白い映画がアメリカ以外のところで作られていると思います。英語かどうかにかかわらず。私のように、なかにはより大きな映画を作ることに向いている人もいますが、自分がいるところにいて映画を作っている人もいます。フィルムメイカーとしては最良の映画を作ること、それが一番重要なのです」【Movie Walker】

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