『マトリックス』シリーズのウォシャウスキー姉弟が『クラウド アトラス』で描く未来像とは|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『マトリックス』シリーズのウォシャウスキー姉弟が『クラウド アトラス』で描く未来像とは

インタビュー

『マトリックス』シリーズのウォシャウスキー姉弟が『クラウド アトラス』で描く未来像とは

「人は何のために生きるのか?」。人種、性別、時代を問わず、この世に生まれた誰しもがぶち当たる疑問。3月15日(金)より公開される『クラウド アトラス』では、『マトリックス』シリーズのウォシャウスキー姉弟が、長年の友人でもある トム・ティクヴァ監督とタッグを組み、この人類永遠の謎に挑戦。またしても、私たちをこれまでにない映画体験へと誘ってくれる。そこで、来日した3人の天才監督を直撃!「私たちの集大成」と胸を張る本作に込めた思い、未来へのビジョンまでを聞いた。

デイヴィッド・ミッチェルの同名ベストセラー小説をもとに、過去・現在・未来にまたがる500年の間の6つのエピソードが紡ぎ出される本作。輪廻転生をベースに、登場人物たちが出会いと別れを繰り返す様を描き、迫力の映像とロマンあふれる世界観で見るものを圧倒する。壮大なテーマに挑むうえでは、3人の間に強い信頼関係が必要だったのではないだろうか。ウォシャウスキー姉弟の姉・ラナは、「この映画では、未来というものが限られているものだということを探求し、信頼や愛がなければ、未来へのポテンシャルは広がらないということを描いているの。登場人物たちの未来に、信頼や愛が欠かせないのと同じように、私たち3人が集まった時には、愛のある信頼関係が実感できた。トムがいたからこそ新しいことに挑めたし、本作を作り上げることは彼なしでは不可能だったわ」と振り返る。

ウォシャウスキー姉弟の弟・アンディは「重い荷物を持つ時は、3人で持った方が楽だろう?」とにっこり。ティクヴァ監督も、「僕の撮った『ラン・ローラ・ラン』(98)と彼らの『マトリックス』(99)は、ちょうど同じ時期に発表した映画なんだ。僕らはお互いの作品を見ていたし、色々なレベルで考えた時に、この2作品は兄弟映画のようだと感じるんだ。だったら、もう連絡を取り合おうと思ったのさ(笑)。会った時にはすぐに、美的にも知的にも、一緒にやっていけると確認ができたよ」と、満足げに3人で顔を見合わせた。

輪廻転生を表現するために、同じ魂を持つ複数の人物をひとりの俳優が演じるという、大胆かつ画期的なキャスティングが実行された。トム・ハンクス、ハル・ベリー、ペ・ドゥナなど豪華キャスト陣が、時代ごとに散らばった、性格や人種、性別も違う、あらゆる人物を見事に演じ分けている。輪廻転生について、どのような見解を持っているか聞くと、アンディは「もちろん、僕は輪廻転生を信じているよ」とうなずいた。続けて、こう持論を教えてくれた。「輪廻という考えは、自分が大きな集合体の一部だということを理解させてくれる。自分の起こした行動によって、色々な結果が生まれているということを考えるきっかけにもなるね。今ここに、僕たち3人が座っているのも、あらゆる出来事の結果なんだ。誰だって、自分の行動が未来に影響を与えていると考えられる」。

本作で描かれる6つのエピソードは、ヒューマンドラマ、近未来SF、アクション、ミステリー、ラブストーリーなど、あらゆるジャンルを網羅している。「すべてがここに行き着くまでの、重大な道のりだった」というアンディの言葉にティクヴァ監督も同調し、「僕らは、これまで色々な作品を作ってきた。僕、そして彼らふたりにとっても、これまですべての作品が『クラウド アトラス』に到達するためのものだったと感じているんだ。楽譜に例えるとすると、今までに奏でた音が集まって、『クラウド アトラス』というシンフォニーになった。それは素晴らしく満足の得られるものだよ。でも同時に、恐怖も感じているんだ。昔、映画監督になりたいと思った頃に、まさにこういう映画を作ってみたいと願っていた。それを達成できたんだからね。この次に撮るものが難しくなってくる。先に進むことが、ちょっと怖い気がしているんだよ」と、素直な今の心境を話してくれた。

『マトリックス』シリーズで、衝撃的な未来像を提示したウォシャウスキー姉弟。本作で映し出される2144年の世界は、水浸しの廃墟の上に都市が築かれており、その先の2321年では、地球は崩壊の危機を迎えている。しかしそのなかでも、困難を乗り越えようと、そして愛する人を探そうと、人間たちが懸命に生きているのが感動的だ。

ラナは未来に対しての思いを、こう明らかにした。「デイヴィッドの原作が描く未来は、もっと悲観的なものだったの。あまり進化を見出さず、すべてがゼロに戻るといったように。でも、私たち3人で話し合った時には、色々なディスカッションを重ねて、未来はもっと希望のある、楽観的なものにしたいと思った。私は、女性という立場を考えた時に、とても進化を感じるの。男性は、あの時代に戻ってみたいと思うことがあっても、女性は絶対に思わないでしょう(笑)?未来はもっと、女性の重要度が増すでしょうね。そして、私の希望としては、戦争が少なくなって、人間のつながり、慈悲や愛の可能性が増えることを期待しているわ」。

本作では、ある時代にはラブストーリーの主人公に、ある時代にはアクションの脇役にと、魂は人生の旅を繰り返す。過ちを犯したとしても、より良い人になれるチャンスがいつだってあるとしたら。そして、この世で手が離れてしまった人と、また次の世界で会えるとしたら、生きることはなんと美しいことだろう。「人は何のために生きるのか」という疑問に3人の天才監督が導き出した答えは、愛と希望に満ちたものだった。『クラウド アトラス』の奏でる、ロマンチックで壮大なメロディに酔いしれると共に、是非とも前向きなメッセージを受け取ってほしい。【取材・文/成田おり枝】

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