『シュガー・ラッシュ』監督が困ったゲームメーカーの意外なこだわりって?
ディズニーの最新作『シュガー・ラッシュ』(3月23日公開)のキャンペーンで来日したリッチ・ムーア監督にインタビュー。本作で長編アニメ映画の監督デビューを果たしたムーア監督は、明るくて陽気なエンターテイナーという印象だった。撮影裏話を聞いたら、身振り、手振りを交えて、楽しく話してくれた。
アニメーション界のアカデミー賞ことアニー賞では、作品賞をはじめ監督賞、脚本賞、声優賞、音楽賞の最多5部門を制した『シュガー・ラッシュ』。ゲームの世界の裏側を舞台に、悪役のラルフと、レーサーになれない少女ヴァネロペが大冒険を繰り広げるファンタジーアドベンチャーとなっている。
ヴァネロペは、原宿のティーンエイジャーをモチーフにしたキャラクターだそうだ。「リサーチの段階で雑誌に載っている写真とかを見ていたけど、今回、念願叶って、初めて原宿へ行ってみたんだよ。とても興奮したね。実際に本物を見るとやっぱり違う。素直に感動したよ」。
いろんなゲームメーカーのキャラクターたちの競演が醍醐味の本作。でも、スタッフサイドは、メーカーごとの調整に苦労したのではないだろうか?ムーア監督は「自分よりも、プロデューサーのクラーク・スペンサーの方が大変だったと思うよ」と苦笑い。「もちろん、いろんな問題が発生することは目に見えていたから、それなら最初から全部のメーカーの方を巻き込んでしまおうという話になったんだ。だから、絵コンテの段階から始まり、各プロセスで彼らの承認を得ていって、どこが違うか?問題点はないか?とチェックしていってもらったよ。それらを修正していき、ようやく全員が納得できるものに仕上がったわけだ」。
監督の表情からも、かなり調整に手こずった様子がうかがえたが、その甲斐あって、特に悪役たちが集うシーンなどはとてもユニークで愉快だ。でも、そのシーンでは、各社から意外なこだわりのリクエストが入ったそうだ。「皆さん、自分たちの会社の悪役が一番背が高いと言い張るんだよ(苦笑)。そこで、やたらもめたのを覚えている。『クッパ(スーパーマリオブラザーズ)は、ザンギエフ(ストリートファイター)より背が高い』とか、『いやいや、そうじゃない』とか、お互いに言い合っていて。悪役については、なぜかそこに一番こだわっていたよ」。
本作では普段、ゲームの世界で悪役を務めているラルフが活躍する物語だ。改めて、悪役の魅力についても聞いてみた。「ラルフは、ゲームのプログラム上、悪役を演じ続けているだけで、決して悪い人間ではない。悪役というよりは欠点だらけの人間で、だからこそ、見る側もつい同情してしまうよね。ラルフはいろんなことをやらかすけど、それでもみんなが応援したくなるようなキャラクターだ。たとえば、完全無欠のヒーロー、フェリックスが主役だったら、映画があまり面白くないものになってしまうと思う。個人的にも、非の打ち所のない人間よりは、穴だらけの人間の方がよっぽど共感が持てるし、観客もきっとそうじゃないかな」。
最後に、本作で伝えたいメッセージについて語ってくれた。「自分に正直に生きることの大切さを伝えたかった。また、ラルフとヴァネロペの関係のように、これまで自分のことしか考えなかった人間が、他人のことを初めて思いやり、自分を犠牲にしてまでその人を助けようとすることで、自分自身が成長していく。より良い自分になろうとするんだ」。
確かにヴァネロペを救おうと一生懸命に奮闘するラルフの姿は、多くの人々の琴線に触れるに違いない。『シュガー・ラッシュ』を見終わったら、図体の大きな強面のラルフが、最高にイケてるキャラクターに思えるかもしれない。【取材・文/山崎伸子】