塚本晋也監督がゆうばり映画祭で得た刺激「映画作りにぶきっちょなままでいたい」
2013年も多くの映画人、映画ファンが集い、温かな拍手に包まれて幕を閉じた「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」。バラエティ豊かなノミネート作品がそろうなか、オフシアターコンペティション部門のグランプリには、戸田幸宏監督が障害者の性の実態に挑んだ『暗闇から手をのばせ』(3月23日公開)が輝いた。審査委員長を務めたのは『鉄男』(89)、『KOTOKO』(12)など、世界の映画祭を熱狂させてきた塚本晋也監督。そこで塚本監督を訪ね、ゆうばり映画祭の魅力から、映画作りへの熱き思いまでを聞いた。
「個人的には、ぶち壊れていて良いので、独特な感性で暴走している映画が見たいと思っていた」と語る塚本監督。今年のオフシアターコンペティション部門に選ばれた10作品の印象を聞くと、「人間関係が空漠としていて、コミュニケーションがうまくできない人たちの“孤独な叫び”のような作品が目立ちました。これは時流なのかもしれません」と振り返る。さらに「見始めた時は、『オフシアターとは何なんだろう』とつかめずにいたんです。一番最初に、2時間くらいの壮大な人間ドラマを見て、次に見たのが短編のスプラッター。ジャンルも分数もすごくバラけているなと。ただ、オフシアターというと、サイズも気にしていない、とても劇場ではかからないような映画なのかと思っていたら、ほとんどが劇場公開を目指しているフューチャーフィルムだったんです」。
こう語るように、ノミネート作品からはメジャー大作とインディーズ映画の両極に二分された映画界の現状が見てとれる。「少し前までは、映画って、大規模、中規模、小規模の映画という分け方ができた。僕の映画は中規模の映画に当たっていたんですが、今は中規模の映画を作るのがとても難しくなってきていて。コマーシャル映画ではない、自分の好きな映画を作るとなると、お金のある大規模の映画ではなく、僕たちも小さい映画を選ばなければならないんです。だから、ノミネート作品を見ると、何ら僕と立場の変わらない人たちが、同じ気持ちで作っている映画だったんですよね」。
塚本監督自身も大いに刺激を受けたようで、「コマーシャルとしての関わりのないもの。自分でお金を作って、劇場公開を目標に頑張っている映画を、オフシアターと言うんだなと感じたんです。昔のような8mmフィルムと違って、デジタルだと技術的にもきちんとした作品に仕上がりますから、これからはどんどんこのような映画が増えると思う。僕もその一員ですから、『頑張っていかなければ!』と刺激になりましたよ」と笑顔を見せた。
圧倒的なパワーを持つ作品を世に送り出し続けている塚本監督。映画界の現状と、自身の映画作りに関して、どのような考えを持っているのだろう。「僕は、映画作りに対してはぶきっちょなままでいようと、若い時に決めていて。40歳くらいになった時に、マニアックな塊のような映画よりも、大規模な映画を撮ろうと思ったこともあったんですよ(笑)。でも、僕はそんなに器用ではないし、やはり僕にとって映画作りは、生きていくうえで、どうしても表さなければ我慢がならないもの。異様なモチベーションを強く持ったものを一つ、一つ、丹念に作っていくことだと思ったんです」。
「大勢の人を喜ばせる遊園地的な映画。そして自分の思いをぶちまける、絵を描く感覚に近い映画と、両方あって良い」と話すが、ゆうばり映画祭に集うのは、まさにその“思いをぶちまける”映画たち。塚本監督との相性が良いのもうなずける。ゆうばり映画祭に感じる魅力とは?「どこの映画祭が好きかと聞かれたら、まず初めに思い出す映画祭の一つで。運営している人たちの熱心さと、温かい余韻が残る映画祭です。ゆうばり映画祭がお手本にしたという、フランスのアボリアッツ・ファンタスティック映画祭もそうですが、ある一定期間、自宅に帰らず、雪の中にこもるわけで。密閉された空間の中、映画ばかり見て、映画の話をしながらお酒を酌み交わすんです。ずっと、みんな楽しそうに映画の話をしていますよ。本当に、お酒の席から帰らない(笑)!そんな、ある夢のような空間が存在する」。
夕張市民の歓迎ぶりにも、いつも心温まる思いがするという。「大変な状況でも、町を盛り上げようと頑張っているのが実感できる」としみじみと語り、話は市民有志が主催する名物の屋外イベント、ストーブパーティーに及んだ。「ああいう場が、本当に大切なんですよ。寒い中、長い時間やっていますよね。たまに映画祭で、あのような交流の場を作らない映画祭がある。僕はそれは絶対に間違いだと思っていて。映画を見るか、ホテルに帰るかじゃなくて、集まって、気持ちを持ち寄る場所がなければいけないと思うんです」。
最後に塚本監督は「ゆうばり映画祭には、ここから広がっていく輪のようなものがある。映画人ならば、映画を作るうえでの知り合いも広がっていくはずです。また、普段会えないようなそうそうたる人にも、この狭い空間で出会えたり、東京や普段の生活では味わえない熱狂がある。是非一度訪れてみてほしいですね」と話してくれた。数軒ある居酒屋やストーブパーティーでも、映画人、映画ファン、市民が一緒になって映画談義。氷点下まで冷え込む夕張には、映画へのプリミティブな衝動と熱気があふれていた。【取材・文/成田おり枝】