広末涼子が夫役の稲垣吾郎に感謝「助けてもらった」
広末涼子が、『鍵泥棒のメソッド』(12)に続き、愛くるしい笑顔を封印した役どころに挑戦した『桜、ふたたびの加奈子』(4月6日公開)。本作は新津きよみの小説の映画化作品で、彼女が演じたのは、子供を失い、失意のどん底にある母親役だ。暗闇の中から一筋の光を見出そうとするヒロインをリアルに演じ切った広末にインタビューし、役作りと、夫役を演じた稲垣吾郎について話を聞いた。
容子役を演じるにあたり、広末は「監督と相談し、実用的なものを着て、飾らない、作らないってところを、徹底してやりました」と、服にもこだわった。「加奈子が生きている頃は明るい色を着ているけど、加奈子を失ってからはダーク系の色、彩度の低い色しか着ていませんし、希望が見えてからは、白い色や少し明るめの服を着たりしました。そういう部分でもリアリティーを出したいと思っていました。やっぱり明るい気持ちでないと、パステルカラーは選べないと思いますし、特に女性はそういう部分に引っ張られることが大きいと思うんです」。
娘の加奈子を事故で亡くした容子は、もうすぐ産まれてくる他人の子供を、自分の娘の生まれ変わりだと信じ込む。夫の信樹は、悲しみにあえぐ妻を必死に支えようとする。夫役の稲垣吾郎については「すごくお芝居に誠実な方」と称える。「監督が『今回の役には稲垣さんの普段のイメージとは全く違う部分を見せたい』とずっと仰っていましたが、ここまで監督の細かい注文に誠実に応えられるのかと。悩みながら演じていらっしゃる姿を見て、素敵だなと感じました。また、それが仕上がった作品にしっかりと表れていると感じました」。
広末は劇中の稲垣について、「今まで見たことのない稲垣さんの印象でした」と言ったが、確かにスターのオーラを微塵も出さず、平凡な夫役に徹した受け身の姿勢が素晴らしい。「この旦那さんがいてくれたからこそ、容子は加奈子との時間を過ごせたと思うんです。その時間は甘えではなくて、彼女の成長に必要でしたし、母親として加奈子の死と向き合う時間だったと思います。信樹もちゃんと同じ悲しみの中にいて、しかも奥さんに拒絶されたり、ひどいことまで言われてしまうのに、包み込むような感じで受け止めてくれました」。
特に、クライマックスのとあるシーンで、容子の感情が高ぶるなか、信樹が頭を下げる場面に胸を打たれる。「私はあのシーンで、全てが見えた気がしました。あのシーンは腫れ物に触るようにしすぎると、物語が劇的になりすぎたり、逆に拒絶するようにしてしまって、容子の行動が狂気的に見えてしまい、見てくださる方々に、共感が得られないと思いました。この夫婦はきっとお互いが大事な存在で、そういう意味では今回、稲垣さんにすごく助けていただきました」。
今、演技派女優として確固たる地位を築いた広末。やはり年々、役柄への向き合い方も変化しているようだ。「10代の頃は、ストレートにその役の感情を表現することで成立していたものが、前作の『鍵泥棒のメソッド』だと、ストレートな感情を出してはいけなかったり、今回の容子役でも悲しみだけじゃない、次を乗り越える表現をしなくてはいけないなかで、自分の経験値や年齢も含め、求められているものが変わってきたのだなと実感しています。特に近年、一筋縄ではいかない役を与えていただいているので、毎回緊張感を持って、新鮮な気持ちで挑めることにありがたさも責任感も感じています」。
女優としての仕事の楽しみについても聞いてみると、「演じていて楽しいと感じることは、実はあまりなくて」と苦笑いしながら、「大抵、苦しんだり、悩んだりします。でも、結果的にはその作品に関われたことが嬉しいですし、楽しい」と大切に言葉を選んでいく広末。「作品でたくさんの方々とつながることができるから。仲間やスタッフさんとはもちろん、見てもらうお客さんや、このように取材をしてくださる方々ともそうです。演じることが自分の存在価値だと思っていた10代の時は、メッセージ性のあるものを選びたいとか、自分がどう見られたいという視点から見ていたことが多かったと思っています。でも、今は作品の一部でいられることがとても幸せです。表現できること自体がありがたく、演じることに対して使命感のようなものが生まれてきて、そういう意味で、今は楽しいと思うことが多いです」。
女優としても、女性としても、素敵に年を重ねていっている広末涼子。彼女の輝きは、仕事や人生に対するひたむきな姿勢から放たれるものなのだと実感した。【取材・文/山崎伸子】