世にも醜い女を演じた高岡早紀が明かす男性観「本当の私を見て」
「永遠の0」で知られる百田尚樹の同名小説を映画化した『モンスター』が4月27日(土)より公開される。描かれるのは、バケモノと呼ばれるほどに醜い容姿を持って生まれた女の悲しい一生だ。整形手術によって絶世の美女へと生まれ変わるというセンセーショナルな内容で、女優・高岡早紀が女の心の叫びを見事に体現してみせた。そこで、年齢を重ねるごとに色気と輝きを放つ彼女に、撮影エピソードや“本当の女の美しさ”について聞いた。
畸形的なまでに醜い和子の高校生時代から、怒りをパワーに変えるかのような整形過程、そして艶やかな美女に変化を遂げるまで。本作で高岡はその道程を一人で演じ切っている。脚本を読んだ印象を聞くと、「ここまで数奇な運命をたどる役はやったことがなかったので、女優としてはなかなか面白い役だと思いましたね。女優という仕事は、色々な時代にいる、色々な女性の運命をたどることができる。今の自分の人生だけでは経験できないことばかりだから、刺激的ですよ」と笑顔を見せた。
バケモノと呼ばれる和子の顔は、特殊メイクによって作られた。その姿はあまりにも衝撃的で、ロケ現場に訪れた原作者の百田すら、高岡とは気付かずに2、3歩後ずさりしたという。「確かに私だってわかりませんよね(笑)。メイクには2時間くらいかかるんですよ。最初にメイクの工程を見せてもらった時は、『そこまでやるのか』とちょっと驚きました。もちろん、原作や脚本には“世にも醜い顔”と字面で書いてあるのでわかってはいたのですが、頭で想像するのと、実際に目にするのとではやっぱり違うので」。
さらに「特殊メイクを施してみて、外見だけでなく心持ちも変わった」と振り返る。「あの顔には、幼少の頃から誰にも相手にされず、愛されてこなかったという、和子の心の闇が反映されているんですよね。ずっと下を向いてきたから、目も半分くらいしか開かないし、暗い、さみしい目になってしまう。その顔を鏡で見ていると、すごく辛い気持ちになりました。気持ちを作るうえでも、特殊メイクはとても助けになってくれました」。
和子は美しくなって、名前を未帆と変えて故郷に帰って来る。複雑な心情表現が要求されたが、彼女の心の変遷を演じるうえで気を付けたこととは?「どんなに姿形が変わろうと、トラウマや心の闇は消えるものじゃない。それはずっと心の芯に残っている。だから、未帆は笑っていても、心から笑っていないんですよね。すごく愛を求めていて、探している。常にそういう気持ちを大事にしていました」。
男性たちは、醜い和子を容赦なく虐げた。整形後は打って変わって、ちやほやと擦り寄ってくる。男たちの身勝手な行動が、腹が立つほどリアルに描かれる。和子を演じてみて、男性観について感じたことはあるだろうか。「たった8万円の整形で、男性の見る目が変わってしまったりするなんて、今までの自分の人生は何だったんだろうと思ってしまいますよね。私自身、結局この人たちは私のどこを見ているのかなと思うことが多々あります。誰でも、『本当の私を見て!』って思ったりするでしょう?」。
続けて、こう語ってくれた。「でも、自分自身でも、『結局、自分って何なんだろう?』と思ったりする。生きていくうえでは、ずっと自分探しの旅は続いていくわけですから。そういった意味では改めて、これまで、そして今後の自分の人生や愛について考えるきっかけにもなる映画だと思います。それが間違っているとかではなくてね。だって、みんなそれぞれの人生、自分の人生が正解に決まっているから」。
和子は、唯一、少女時代に優しい声をかけてくれた英介(加藤雅也)にも未帆として再会する。和子と名乗らないまま、肉体関係を結び、恋心を成就させる。成就といえど、悲しみの感じられるセックスシーンとなった。「あのシーンはとても複雑でしたね。悲しいシーンですよね。でも、あの時はお互いに、それでしか愛の形を表現できなかった。自分の愛の一欠片を成就させることができたわけだから、もちろん悲しいけれど、彼女としては良かったし、必要なことだったと思うんです」。
ふわりとした笑顔のなかに、凛とした美しさが光る。年齢を重ねるうえで心がけていることとは?「すごい悩むこともあるけれど、基本的に楽天的な方なんです。『なるようになれ!』って思った方がうまく行く時もあるし、何が正しい道かは、進んでみないとわからない。一歩、一歩、前に進んでいくことが大事かもしれませんね。立ち止まっていても仕方ありませんから(笑)。美しくあるために必要なのは、内面磨き。内面から出てくるものって大きい。簡単にできる話ではないけれど、内面も鍛えていきたいと思います」。
彼女から発せられるのは、たくましく、懐の深いオーラ。そこに絶妙に女らしさが絡み合い、男性だけでなく女性もがほれるような人間的な魅力にあふれている。和子の心の底からにじみ出る悲しみは、一歩、一歩、自分の力で歩んできた“今”の彼女だからこそ演じられたものだろう。高岡早紀が体当たりで挑んだ女の一生を、是非スクリーンで見届けてほしい。【取材・文/成田おり枝】