佐藤健の顔と綾瀬はるかの運動神経がすごいと黒沢清監督が太鼓判!
『トウキョウソナタ』(08)の黒沢清監督が、佐藤健と綾瀬はるかという二大スターを迎えて放つ『リアル 完全なる首長竜の日』(6月1日公開)。第9回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した乾緑郎の小説の映画化作品だが、現実と仮想が入り乱れる神秘的な世界が繰り広げられる。黒沢監督にインタビューし、本作の撮影秘話と、主演の2人の新鮮な魅力について話を聞いた。
本作では、主人公が自殺未遂で昏睡状態になった恋人を救うため、最新医療のマシンを使った“センシング”と呼ばれる手法で、恋人の意識内へ潜り込む。黒沢監督は、「原作は読み物としてとても面白かったけど、どう映像化しようかと、最初は途方に暮れました」と苦笑いする。「もやもやっと撮る手段もあるけど、果たしてそれが面白いのかと。また、こっちは意識下、こっちは現実とハッキリ分かれているのなら単純だけど、そうではなくて入り混じる。大変、無謀な試みだなと思いました」。
実際、脚本と演出でいろんな工夫が施され、ただのファンタジーではなく、広がりのあるミステリアスな世界に陶酔できる映画となった。黒沢監督は「そもそも映画って一種の仮想現実を楽しもうというものですから、あまり気にすることはなかったなと。意識の中であれ、現実であれ、佐藤健さんや綾瀬はるかさんが、目の前に立ちはだかる難問を乗り越えようと、果敢に挑んでいく姿は何も変わらないから」。
謎めいた世界観を身を持ってリアルに体現したのが、佐藤健と綾瀬はるかだ。黒沢監督は2人について、「若くてもプロ」と賛辞を惜しまない。「脚本を何度も読んで役を組み立て、自然に演じていました。そこはやっぱりトップクラスのスターで、若いけど時代劇などもやっているし、キャリアも積んでいる。演じた役柄は、自分の実生活とかなりかけ離れたものですが、ある種の計算と直感でやっていかれました」。
佐藤たちを初めて演出した黒沢監督だが、いろんな発見があったそうだ。「佐藤さんはご一緒する前から、ある種の揺らぎや屈折、何か謎のようなものを感じさせる俳優だなあと思っていました。実際、それが彼の魅力でしたが、怖がる表情やギョッとする顔、得体のしれないものにだんだん近付いていく表情が、本当に板についていました。劇中でいろんな仕掛けをしていますが、最も緊張させるのが、佐藤健の顔なんです。本人いわく、『生まれながらのびっくり顔だから』とのことですが、僕は冗談ではなく本気で『あなたの顔は撮っているだけで怖い』と言いました(笑)。もちろん100%のほめ言葉です。あの人の漂わせる緊張感は気持ちが良いくらい映画的。本格的なホラー映画に出てもすごく良いと思います」。
また、綾瀬については、朗らかさと運動神経の良さに感心したそうだ。「天然だと言われていますが、ものすごく場をわきまえた方でした。単に馬鹿っぽいことをやるわけではなく、周りの雰囲気をちゃんと見て、実に巧みに場を和ませてくれました。ほわんとしていて、みんなから好かれる方ですね。その一方で、疾走したり駆け上がったり、かなり瞬発的な動きも要求されるなかで、抜群の動きをされました。全力疾走で走ってくれと言うと、カメラが追いつかないくらいに速い(笑)。しかも、走るフォームが美しい。瞬発力も素晴らしいから今回とても助かりました。是非、アクション女優を目指してほしいです」。
本作でまた新境地を開拓したと言われる黒沢監督。その手応えを聞いてみた。「日本の若い20代の俳優がすごい力を持っていることは、1つ前の『贖罪』(09)で感じたんです。だから、今回絶対いける!という確信がありましたが、やっぱりいけました。若い俳優は日本映画の財産です。若くしてスターになったことはとても良いことで、すごく責任感があり、勉強もしているし、演技も本当に上手い。日本映画をこれから支えていく存在です。今回、彼らとやったことで、これからも映画でいろんな可能性を試せるなと思いました。そういう意味で、僕の新境地かもしれません」。
カンヌ、ヴェネチア、ベルリンなど、各国の映画祭で評価されてきた黒沢監督と、若手スターのなかでもダントツの人気を誇る佐藤健と綾瀬はるか。このドリームタッグによる『リアル 完全なる首長竜の日』は、それぞれの能力の相乗効果が実を結んだ渾身の作となった。【取材・文/山崎伸子】