星野源&夏帆、『箱入り息子の恋』がもたらした胸キュンと芝居への可能性
見ているだけで汗と涙、そして笑顔があふれ出す。規格外のパワーを持った恋愛映画が誕生した。『箱入り息子の恋』(6月8日公開)で、愛らしいカップルに扮したのは、今、最も演じることを楽しんでいるように思えるふたり、星野源と夏帆だ。そこで彼らに直撃インタビュー!
本作は、多彩な才能を発揮してきた星野源にとって、初めての主演作となる。演じるのは、彼女いない歴35年。人と接するのが苦手で、自宅と職場だけ行き来する日々を送る男・健太郎役だ。星野は「健太郎は、『コイツ、すごい好きだな』と思える人。初めての主演を健太郎という役で飾ることができて、すごく嬉しいんです」と心からこの役を楽しんだようだ。「健太郎に共感できる部分はあまりなくて。僕は、何にしても欲深い方なんですよ」と、意外にも肉食系の一面をのぞかせる。「だからこそ、自分とは全然違う人として演じることができた。健太郎はすごく真面目で、それなのに周りから馬鹿にされてしまう。『好きだな』と思える人なので、自分なりの健太郎像を作って、撮影に臨みました」。
定時には家に帰り、その後はひたすら格闘ゲームに向かう。健太郎の目は、何も見えていないかのようにどんよりと沈んでいる。しぶしぶ行った、親同士が婚活する代理見合いで出会ったのが、盲目の女性・奈穂子だ。星野は「誰にも見てもらえなかった健太郎に、初めて自分のことを見てくれる人ができた。それが、たまたま目の見えない人だったというお話。シンプルだけど、とても良い話だと思ったんです」と話す。
テーマは、シンプルな恋物語。しかし、手探りで、傷つきながら、素っ裸になって障害に立ち向かっていくふたりの恋は、驚きとときめきに満ちた展開を見せていく。星野は「話がどんどん変な方向に進んでいく。脚本を読んでいて痛快でした」というと、夏帆は「市井(昌秀)監督が撮ったからこそ、こういう映画になったんじゃないかなと」と思いを巡らせた。「奈穂子が目が見えないことや、健太郎が殻に閉じこもった性格であることなどを、監督は全て、その人の癖ととらえたいと仰っていて。その言葉がとても印象的だったんです。あとは、奈穂子がストローを鼻に挿しちゃうとか(笑)。監督が後から足した仕草が幾つかあって。そういう、ちょっとした仕草の効果は大きいかもしれませんね」。
ふたりの間に流れる、安心感ともいえる空気が何とも心地良い。星野は「夏帆ちゃんのことは可憐な人だなと思っていたんです」と、抱いていたイメージを告白。「しかし、実際はとても男気のある人でした(笑)。媚びないというか、仕事に対しての姿勢も男らしくて格好良い。より好きになりました」。夏帆は照れ笑いを浮かべ、「私も星野さんの音楽を聞いたり、作品を見たりしていました」と話す。「実際にご一緒してみて、星野さんには何でも受け止めてもらえるような、『ドーン!』とした感じがあって(笑)。私も安心して、お芝居をすることができました」。
奈穂子から「行ってみたい」と切り出す吉野家デート、眼鏡をぶつけてのぎこちないキスなど、身もだえするような胸キュンポイントが満載だ。最もキュンとしたシーンを聞いてみた。夏帆は「奈穂子が『デートに行きませんか?』と言って、手をつなぐシーン。手をつないで歩き出すんですが、健太郎さんの前に大きな石が出現して(笑)。あの健太郎さんのあわあわした姿が好きです」。星野も「あれ、アホですよね。真面目なんですよ」と笑い合う。
さらに夏帆は、「あとは、健太郎さんが思いをぶつけるお見合いのシーン!必死な人って良いですよね。私は男性、女性に限らず、一生懸命な人が好き。私も常に、一生懸命でありたいですね」。一方の星野は「ベランダから夜這いに来た健太郎のことを、奈穂子が何の疑問も持たずに引き上げるシーン(笑)。すげえなって、包容力の鬼だなと思いました。奈穂子は健太郎がむちゃくちゃになっても受け入れてくれる人。本当に合うふたりなんだなと思いました」と、すっかり健太郎&奈穂子のカップルに魅了された様子だ。
「絶対に、健太郎を馬鹿にしたり、悪意のある気持ちでお芝居をしたくないと思った」という星野。本作を通して「よりお芝居が好きになった」と話す。「自分のなかから役柄を引っ張り出さないという、今までとは違うアプローチをして。それは自分にとっても挑戦でした。今までは、ウワーッと感情を出すシーンが楽しかったんですが、今回はパソコンの前でただボーッと座っているようなシーンが、たまらなく楽しくて。ひたすら、役を生きるということに挑んでみて、すごく楽しかったんです。もっとお芝居がしたいなと思いました」。
本作に限らず、新たな表情をどんどん見せてくれているのが夏帆だ。その姿は清々しく、たくましいほど。「私は今まで、リアリティばかりを意識していたところがあって。今回で言えば、『目が見えないということを、いかにリアルに演じるか』と、最初はそちらの方に意識が行きがちだった。でも、映画ってそうではなくて、そのなかで成立していれば良い。日常では絶対に起きないようなことが、映画のなかでは起きる。現実世界を基準に考えないで、作品のなかの基準で演じようと思ったんです」。
最後に星野は「障害をどんどんぶちのめしていく。そんなふたりを応援したくなる映画」と胸を張った。枠に収まりきらない、演じることの可能性を知った星野源と夏帆。ふたりの見せる体当たりの恋は、箱から飛び出したくなるような、そんな力もくれそうだ。【取材・文/成田おり枝】