「一人では生きていけるわけがない」永作博美が明かす、両親への感謝

インタビュー

「一人では生きていけるわけがない」永作博美が明かす、両親への感謝

伊吹有喜の同名小説をタナダユキ監督が映画化したヒューマンドラマ『四十九日のレシピ』が11月9日より公開される。主人公となるのは、突然に母を亡くしたアラフォー女性・百合子。父・良平とともに、母の人生、そして遺してくれた愛情に触れながら、少しずつ一歩を踏み出してゆく姿が、優しく、静かに描かれる。百合子を演じるのは、演技派女優の永作博美だ。永作をインタビューし、役柄の印象、両親への思いまでを聞いた。

亡くなった母が遺してくれたのは、家族がちゃんと毎日を暮らしていけるようにと、家事の知恵や健康に関するアドバイスが、楽しいイラスト付きで描かれた“暮らしのレシピカード”だった。物語を動かすきっかけとなるのは、その中の1ページに記された「自分の四十九日には大宴会をしてほしい」との希望だ。永作は、こう振り返る。「脚本を読んだ時に、なんて素敵な一言なんだろうと思いました。たいてい、自分の持ち物や、自分の亡骸をどうしてほしいという希望は、遺言に書いたりするのかもしれないけれど、そういうことではなく、自分がいなくなった後も、『みんなに楽しくしてほしい』という配慮がとても印象的で…。『そんな素敵な会を是非、開きたい!』と思ったのが、一番の出演のポイントでした」。

主人公・百合子を取り巻く環境は、不妊・義理の母の介護・夫の浮気など、なかなかにシビア。百合子は、その数々の問題を自分のなかに閉じ込めて、一人、耐えているような女性だ。永作は「百合子は、極端に抱え込んだ女性。固い鎧を着ているようなイメージですね」と印象を吐露。さらには「今まで、あくの強い、事件性のある役をやることが多かったので、こういう静かな役は難しいなと思ったんです」と笑う。「こうやって抱え込んで生きている人って、きっといるんだろうなと思ったし、両親との間にあるちょっとした隙間が埋められないまま、ちょっと気持ち悪いまま生活をしている人もいると思って。百合子の頑なさが、少しずつほどけていく姿が見せられたら良いなと思いました」。

物語の前半、頑なな百合子を演じるうえで、「肌のお手入れをほとんどしなかった」という永作。たまごのようなツヤ肌で、“大人かわいい”の代名詞とも言われる彼女だが、「精神的にも閉ざされていて、介護で忙しかったり、あまり外に出ていないんじゃないかと思うと、そんなに肌に気を配っていないんじゃないかと思ったんです。あまり、触っていない印象が出ると良いなと思って」と照れ笑い。体から、百合子を理解しようとする姿が印象的だ。

百合子の心を解かしていくのは、生前の母を知る人との関わり、そして父との関係だ。父親役をベテラン俳優の石橋蓮司が演じている。「蓮司さんは、本当にお茶目!現場では人を笑わせるようなことばかりしている」と永作。「(タナダ)監督が、蓮司さんと私を父娘役にと希望してくれたんですが、2人で並んでいるチラシとかを見ると、『ああ、わかるな』と思いました(笑)。なんかしっくりきていますよね!私と蓮司さんはどこか似ているのかもしれません。テストの時点から、お父さんを叱ることができましたし、蓮司さんも『娘として違和感がなかった』とおっしゃってくれました」と話すように、父娘のコンビネーションが最高だ。

「似ている」のポイントを聞いてみると、「蓮司さんはずっと、テントの立て込みや舞台からお芝居をやってこられた方で。自力でお芝居をされてきた方なので、現場で作っていくのが好きなんですよね。私も、現場でその時、その場で作っていくのが楽しいタイプなので、そういったところも似ているのかもしれません」と分析。スクリーンからも、父娘の可笑しくも温かなやり取りが、リアルな息遣いとして伝わってくる。

自分の知らなかった両親の姿、思いに気付いていく百合子だが、永作も今、両親からの愛をひしひしと感じているという。「私自身、『親は大変な思いをして、自分を育ててくれたんだな』ということが、やっとこれくらいの年齢になってわかってきて。10代の頃は、母親に『私は一人で生きていける!』くらいのことを言ったりしていました。そう言っている時だってさんざん世話になっておいて、一人なんかじゃ、生きていけるわけないんですけどね(笑)。私も子供を産んで、気付いたことが大きいのかもしれません。自分で育ててみて、『こんなに大変なんだ』って身に染みています」。

「ふっと肩の力が抜ける映画」と永作。家族の愛と、百合子の静かだけれど、確かな決断に清々しい気持ちをもらえる。じんわりとした感動作だ。【取材・文/成田おり枝】

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