スプレーで殺人!?100人以上も殺害した殺し屋の驚きのテクニックとは?
『羊たちの沈黙』(91)のレクター博士、『フロム・ヘル』(01)の切り裂きジャック、『ノーカントリー』(07)の殺し屋シガーなど、映画史上に強烈な印象を残した連続殺人犯たち。彼らとは一線を画す実在の殺し屋を題材にしたのが、公開中の映画『THE ICEMAN 氷の処刑人』だ。ギャングの掃除屋を請け負う冷酷なヒットマンでありながら、温かい家庭を築き妻と娘たちにその正体を約20年間も隠し通したリチャード・ククリンスキーの二重生活が描かれる。
1960年代から80年代にかけて100人以上ものターゲットを“処理”したといわれるククリンスキー。今回注目したいのは彼の殺しテクニックの数々だ。突然背後に現れナイフで一突き、言葉巧みに気を逸らして銃殺、首にロープを巻きつけ背負いながら絞め殺すなど、方法は多岐にわたる。極めつけは、ナイトクラブでのワンシーン。リズミカルなダンスで標的に近づいたかと思うと、クシャミに見せかけ猛毒のシアン化合物をスプレーで噴射。わずかな時間で確実に目標を仕留めるのだ。しかもそれだけでなく、後始末もクイック&スムーズな完璧主義で、死亡日時を誤魔化すため死体を冷凍保存したことから“アイスマン”と恐れられていたほど。
しかしなぜ彼は、ここまで多種多様な殺しのテクニックを使い分けたのか。彼にとって殺しは猟奇的な殺害方法を偏愛する前述のシリアルキラーとは異なり、あくまでも“仕事”。感情や欲に駆られた楽しみなどではなく、各依頼のTPOに合わせた手段だと犯罪心理学者も分析している。また、決して“仕事”を家には持ち込まなかったククリンスキーには、常に“家族への愛”があった。妻が夢見る高級住宅を買ったり、娘たちをカトリック系の私立校に通わせたりと、ごく一般的な「家族にいい暮らしをさせたい」という想いから“仕事=殺人”を遂行していくという、独特な殺し屋像が浮かび上がってくる。
『マン・オブ・スティール』(13)でゾッド将軍の熱演も記憶に新しいマイケル・シャノンが主演を務め、その確かな演技力からオスカー候補とも囁かれる本作。千差万別な殺しのテクニックに驚愕しつつ、極端な二重生活に葛藤する人間ドラマもぜひ堪能してほしい。【トライワークス】