最も鬼才と呼ぶにふさわしい監督、ニコラス・ウィンディング・レフン。彼が異色のクライムアクション『オンリー・ゴッド』を選んだ理由とは?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
最も鬼才と呼ぶにふさわしい監督、ニコラス・ウィンディング・レフン。彼が異色のクライムアクション『オンリー・ゴッド』を選んだ理由とは?

インタビュー

最も鬼才と呼ぶにふさわしい監督、ニコラス・ウィンディング・レフン。彼が異色のクライムアクション『オンリー・ゴッド』を選んだ理由とは?

映画監督を紹介する際、“鬼才”という言葉は安易に使われすぎている感もあるが、今、世界中でその言葉を使うのにもっとも相応しいのはこの監督に違いない。デンマークのコペンハーゲン出身、鬼才ニコラス・ウィンディング・レフン監督。前作『ドライヴ』は、2011年カンヌ国際映画祭の監督賞を筆頭に、世界中の映画祭で賞を受賞。ここ日本でも映画ファンの間で熱狂的に支持された、傑作バイオレンスアクションにして、胸を締めつけるような片想いの恋愛映画でもあった。大ブレイク作となった『ドライヴ』の後、きっとレフン監督の元にはハリウッドからのオファーが数多く届いていたに違いないが、彼が次作に選んだのは、『ドライヴ』よりもさらにバイオレンス度の高い、タイのバンコクを舞台にした異色のクライムアクション『オンリー・ゴッド』だった。来日中のレフン監督に、その理由を訊いた。

「『オンリー・ゴッド』は、実は『ドライヴ』の前から準備していた作品なんだ。僕はこの物語に完全に取り憑かれていて、どうしてもこの作品を完成させる必要があった。そうじゃないと、他のプロジェクトについて考えることもできなかったんだ。これは神についての物語であると同時に、とても強い影響力を持った母と、その息子の物語でもあるんだ」

『ドライヴ』に続いて、本作でも主演を務めているのはハリウッドスター、ライアン・ゴズリング。秀作揃いのゴズリングの近年の出演作の中でも、『ドライヴ』は彼にとって大きなターニングポイントとなる重要作となった。本作『オンリー・ゴッド』では、『ドライヴ』の主人公ドライバーよりもさらに無口で、さらにエキセントリックな主人公ジュリアンを演じている。かつてのデヴィッド・フィンチャー監督とブラッド・ピットのように、レフン監督とゴズリングの間にはきっと特別な信頼関係があるのだろう。

「ライアンは自分にとって分身のような存在と言えるかもしれない。一挙一動を見てるだけでおもしろいヤツだし、頭もとてもいい。自分と非常に似ているところがあるせいか、言葉をそれほど交わさなくても自分の意図をわかってくれるから、とても仕事がやりやすいんだ。自分と似ているところはどこかって? それは内緒だよ(笑)」 

ハリウッドのアクター、ハリウッドのスタッフと仕事をしながらも、レフン監督はホームタウンであるコペンハーゲンを拠点にマイペースで創作活動を続けている。その理由は、これまでのキャリアで学んだ“経験”からきていると言う。

「ハリウッドに拠点を移すことは考えてないね。あそこはクレイジーな場所だから、ちょっと距離を置く必要があるんだよ。確かに僕の作品もクレイジーかもしれないけど、僕は自分の小さな世界の中でクレイジーでありたい。みんなと一緒にクレイジーになるのはあまり好きじゃないんだ(笑)。自分が何よりも重要視しているのは、“クリエイターとしての自由”なんだ。数年前まで、僕は自分の全財産を映画作りに費やして、完全にどん底の状態だった。その経験から学んだのは『どんなにどん底の生活をしていても死ぬことはない』ってこと(笑)。だから、今の僕には怖いものなんてないんだよ。その時の経験のおかげで、どうやったら映画で失敗するのかも学ぶことができたしね。もし映画監督を目指している若い人にアドバイスができるとしたら、『一回は失敗をしてみなさい』ということだね。ただ、そこで重要なのは、決して『誰かのせいで失敗した』と後から思ってしまうような作品は作らないこと。『全部自分のせいで失敗した』と思えれば、どんな失敗でもきっと乗り越えることができるはずだよ」

『オンリー・ゴッド』でアジアの都市バンコクを舞台にしたレフン監督だが、実は東京を舞台にした作品のプロジェクトも水面下で進んでいたという。

「『ドライヴ』を観たミスター・スズキ(鈴木清順監督)から連絡をもらったことがきっかけとなって、『東京流れ者』(鈴木清順監督、1966年の作品)のリメイクを作ってみないかという話があったんだ。でも、自分にとってあの作品はとても大好きな作品だし、あのリメイクを作るなんて畏れ多くて、一旦その企画はなくなったんだ。ただ、引き続き東京で映画を撮ってみたいという思いは残っている。東京が映画の舞台として魅力的なのは、世界から完全に“孤立”しているように思えるところだね。こうして日本にいると、他の世界から隔離されているような気持ちになれる。おもしろいドラマというのは、そういう場所から生まれると思うんだ」。【取材・文/宇野維正】

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