北村一輝にとってR指定の映画とは?「開かずの扉の向こうは、見たがるもの」
今、アジア圏で最も熱い注目を集めている映画大国のひとつ、インドネシア。壮絶なアクションで世界中の度肝を抜いた『ザ・レイド』(11)も記憶に新しいことだろう。そんななか、日本とインドネシア初の合作映画『KILLERS キラーズ』(2月1日公開)が誕生。クールにして、得も言われぬパワーに満ち溢れたバイオレンスドラマに仕上がった。主演の北村一輝を直撃し、刺激的な撮影を振り返ってもらった。
東京とジャカルタを舞台に、殺しに魅了された男たちの狂気を描く本作。北村は、冷酷でサディスティックなシリアルキラー・野村役を演じる。北村は「オープニングの映像と音に触れた瞬間に、監督のセンスを感じました。映像のマジックや技術が含まれたものこそ、映画。まさに、魅せる技術の詰まった映画だと思いました」と完成作に驚きを隠せない様子。
メガホンを取るのは、ティモ・ジャヤントとキモ・スタンボエルの親友2人組からなるモー・ブラザーズ監督だ。脚本を読んだ段階では「実は、野村という役にまったく共感ができなかった」という北村。「でもこれまでも、途轍もないパワーとクオリティのある映画を撮ってきた監督で、会ってみたいなと思いました。そして『どうして、この映画を撮りたいんですか?』と聞いてみたかった」。
その時のモー・ブラザーズの返答こそ、北村の気持ちを大きく動かすことになる。「アジア人として、これだけのクオリティがあるんだと見せられる映画を作りたいと言うんです。そのためには、このジャンルが一番勝負しやすいジャンルだと」。“このジャンル”とは、スプラッター描写を伴うバイオレンスだが「ホラーやスリラー映画は、日本ではコアな部分に思われがちですが、他の国ではど真ん中のジャンルだったりしますよね。僕も、教科書に乗っ取って生きているわけではないので、日本を基準に物事をはかるのではなく、そういう考え方があっても面白い」と、探究心を大いにくすぐられたようだ。
東京で理由なき殺人を繰り返す野村と、ジャカルタで偶発的に殺人を犯してしまう男・バユ。ネットを通じて、彼らが宿命の出会いを果たす姿が描かれる。「監督は、野村とバユの対比を描きたいんだろうなと思いました。そのビジョンは明確で、判断力にも優れている。何よりもセンスが良い」と賛辞の声を惜しまない。なかでも刺激的だったのが、彼らの目が「世界に向いていること」だったと続ける。
「日本では、この映画はR-18+指定で、インドネシアでも指定を受けるかもしれない。でも監督は、『もしインドネシアで公開されなくても、アメリカや他の国でも、どこでも見てもらえる』という考えの持ち主。僕たちはどうしても、日本中心に考えてしまうけれど、彼ら英語圏の人の強みというのは、世界に目が向いていること。そこが、僕に足りないところだと思いました」。
そのためには、細かい演出も受けたという。「監督は、日本映画は字幕がないと見られないから、あまり世界中で見られないと言っていて。今回は、(英語圏の人が)字幕なく見られるような英語をしゃべるよう、細かく注意を受けました。そこには、ものすごくこだわっていましたね。僕も、日本でどう見られるかを意識するのではなく、彼らの演出に100%委ねようと思いました」。
ジャカルタでも撮影を敢行したが、「ものすごく自由で、街の活気も感じた」と異国での撮影を述懐。「日本は今、何かを見ないように蓋をしているようなところがあるんじゃないかな」と、打ち明ける。それは、本作のようなR指定映画についても感じることだとか。「開かずの扉の先は、どちらにしても見たがるもの。昔、僕たちが子どもの頃は、当たり前のようにホラー映画もテレビで見られたでしょう?良いとされる映画だけを見るのではなく、いろいろなジャンルの映画を見ることも必要だと思う。自分で判断したり、チョイスしたりできる人間を育てるには、映画はとても良い材料だと思っていて。僕としては、もっと自由でも良いのかなと思っています」。
「そのためには、否定ばかりをして争うのではなく、作る側も様々な見せ方をしていくことが大切」と北村。表現の可能性に挑むモー・ブラザーズ監督と、北村一輝の相性は抜群。是非とも『KILLERS キラーズ』で、アジア人の底知れぬパワーを目撃してほしい。【取材・文/成田おり枝】