父クリント・イーストウッドの監督としての強みとは?息子カイル・イーストウッドが明かす
名匠クリント・イーストウッド監督の最新作『ジャージー・ボーイズ』が日本に上陸した(9月27日公開)。クリント・イーストウッドが今回挑んだのは、伝説的なポップグループ「ザ・フォー・シーズンズ」の栄光と挫折を描く物語だ。「シェリー」「君の瞳に恋してる」などワクワクとするような数々のヒットナンバーと共に人生の機微を鮮やかに映し出し、生きること、そして音楽への愛と敬意にあふれた感動作となっている。このたび、クリントの長男で本作の音楽にも携わったジャズ・ミュージシャンのカイル・イーストウッドが来日。感動作を生み続ける父クリント・イーストウッドの映画製作現場にある“魔法”について語ってもらった。
トニー賞を受賞したロングランミュージカルの映画化となる本作。カイルは「残念ながら舞台版は見る機会に恵まれなかったんだ」と言うが、本作の企画を聞いた時には、ミュージシャンとしても興奮するものがあったそう。「バンドが始まる時やキャリアがスタートする様子を描いた作品には、僕自身すごく興味があったからね。父が監督をするにあたって、脚本が僕の方にもまわってきたんだけれど、それを読んだだけでもこれはすごく良いものになると思ったよ」。
現在46歳のカイルだが、「僕は50年代や60年代の音楽が好きで。『ザ・フォー・シーズンズ』ももちろん大好きだったんだ」とニッコリ。国や世代を超えて愛される彼らの魅力については、「非常に高くて、特徴的なフランキー・ヴァリのボーカル。そしてコンポーザーであるボブ・ゴーディオとのコンビネーション。それらが彼らの音楽をとても優れたものにしていたと思う」と歌い手と作り手が最高の出会いを果たしたグループだと話す。
『ミスティック・リバー』(03)『ミリオンダラー・ベイビー』(04)などの楽曲を父と共に担当。2008年には『グラン・トリノ』の音楽がゴールデングローブ賞最優秀主題歌賞にノミネートされるなど、観客に音楽で感動を届け、父の映画を支え続けているカイル。本作では、「ザ・フォー・シーズンズ」の楽曲がすでに存在しているため、「ドラマチックにシーンを盛り上げるための音楽作りを担当した」とのことだ。
1960年代の時代性と映画のドラマ性を音楽としてマッチさせるには、どんな苦労があったのだろう。「僕の役割としては、映画の中に綴られている感情を音楽で伝えるということなんだけれど、そこであまり大げさなことをしないように心がけたんだ。というのも、父の考え方として、『あまりトゥーマッチなものは必要ない』という考えがあるんだ」。また、父からの指示は「すごく具体的にアイディアを示してくれる面と、『君に任せるよ』と創作的な自由を与えてくれる面との両方がある。それはすごくやりやすかったね」と理想的なパートナーであるようだ。
老練の名匠クリント・イーストウッドの世界を堪能できる作品となったが、カイルは「彼の監督としての一番の強みは、役割に応じて最も相応しい人を選び出すことができること」だと語る。「無理に人を選んでしまって、その人らしくない部分を強要してしまう人もいるよね。でも彼の場合、そういうことはまったくない。だからこそ、役者陣もみんな自然な演技ができるんだ。実際、セットにいてもすごく心地が良くて。無理を強いられないから、ストレスもないし、変にテンパったりすることもない。映画の製作において環境作りというのは、非常に需要なこと。それを提供できるのは、彼の素晴らしいところだと思うね」。
カイルは、映画音楽家としてだけでなく、人気ジャズ・ベーシストとしても活躍中だ。それぞれには、どのような楽しみがあるのだろうか。「一番満足感を得られるのがライブだね。だけれど、映画音楽を書くこともまた違った意味ですごく楽しいんだ。映像と一緒になったらどんな風になるだろうと想像しながら曲を作って、それをオーケストラに演奏してもらって、レコーディングして。その段階でまたどんどん違うものになっていく。最終的に映像と一緒なった時の満足感もある。ジャズが瞬間のものだとすると、映画音楽は長いプロセスを要するものだけれど、それもまた得難い楽しみがあるものなんだ」。
パリ在住の息子とカリフォルニア在住の父。カイルは「会いたいと思うほどには会えないんだけどね」と苦笑い。音楽好きの両親のもとに育ったが、「17、8歳の頃に、キャリアとして追及するのは音楽の世界だと思った。その時に両親は、『ミュージシャンをやるんだったらやりなさい』と応援してくれたよ。でも『やるんだったら本気でやれよ』と言われたんだ」と穏やかに笑う。本作では、親から子へと大事なメッセージが託されるが、カイルもまた両親からの言葉を胸に刻み前進し続けているようだ。【取材・文/成田おり枝】