原作者・天童荒太×監督・堤幸彦「悼む人は我々の鏡」
第140回直木賞を受賞した天童荒太のベストセラー小説を、堤幸彦監督が映画化した『悼む人』(2月14日公開)。原作にほれ込んだ堤監督は、本作の演出は舞台化に続いて2度目。公開に先駆けて、天童と堤の対談を敢行し、作品への思いをたっぷり聞いた。
物語の主人公は、全国を放浪し、事件や事故で亡くなった見ず知らずの人々を“悼む”旅を続ける青年、坂築静人。そんな静人を囲む人々――病に侵された母や家族、静人の旅に同行する、夫を殺した女性・倖世、静人の行為に疑念を抱く新聞記者・蒔野らが織りなすドラマが、激しくも静謐な空気をまといながら綴られていく。
静人は、なぜ、何のために悼む旅を続けるのか?天童は、原作を書き始めた時のことをこう振り返る。「“悼む人”というコンセプトが啓示のように浮かんだとき、どういう人間なら成立するのかは全くの五里霧中でした。自分でも人々の亡き場所を訪ね続け、何年もかけてようやく静人という人物が見えてきました。一番大切なのは、そういう人がいたら我々はどう反応するのか、ということ。悼む人は“鏡”でいい。その鏡を通して我々ひとりひとり、あるいは社会や世界が、生き方、死や生をどう捉えていくか、どう変えていくべきかを考えていく。それこそが重要なことなのです」。
そう熱く語る天童の言葉を受けて堤は、「“鏡”はとても的確な表現だと思う」と語る。「僕も静人はストーリーの軸であり、ある種のアイコン的な要素である、と思いました。静人自体は変わらない流れの中で、彼の“悼む行為”によって変化する人々の物語が猛烈に興味深い。しかし最後に静人自身も、本来の人として、子供としての姿に目覚めていく。それまでは悼むという行為の中で無理矢理押し留めていた、人を愛する心が少しずつ溶けていく…。どこをとっても素晴らしく深いストーリーです」。
そんな“悼む人”という難役を渾身の力で演じているのは高良健吾だ。撮影現場で天童は、高良の演技を絶賛したという。「先ほどお話した理由から、僕は敢えて静人の心情を書かずにいたので、演じる人は非常に難しいだろうな、と思っていました。現場で高良さんを見たときは、ご自身で何かを許していない、という感じがした。それがすごく静人だと感じましたし、素晴らしかった」。
高良をはじめ、キャストと直に向き合った堤も、その確かな手ごたえを語る。「俳優は、やっぱりセリフという拠り所がないと、なかなか確信を持てないかもしれませんね。だから僕はずっと、高良君のそばで“大丈夫ですよ、それでいいんですよ”と言い続け、言葉をじっくり交わしながら、静人という人物像を作り上げていきました。倖世を演じた石田ゆり子さんも、自ら役柄に志願してくださっただけに体当たりの演技を見せてくれましたし、静人の母役の大竹しのぶさんも、言うまでもなく素晴らしい、凄味のある演技です。蒔野役の椎名桔平さんに関しては、生き埋めになるシーンがあるのですが、1分までならいいと言ってくれたので、本当に生き埋めにさせてもらいました(笑)。この作品に対するキャストのみなさんの思い入れを、本当に強く感じた現場になりましたね」。【取材・文/折田千鶴子】