豊川悦司、足キスは「自分の生理にない行為」と告白
恋愛映画の名手・廣木隆一監督が西炯子の同名コミックを映画化した『娚(おとこ)の一生』(2月14日公開)。榮倉奈々と豊川悦司という魅力的なキャストを迎え、素直になれない、大人だからこその不器用な恋をスクリーンにみずみずしく映し出す。
とりわけ話題となっているのが、豊川演じる海江田が、榮倉演じるつぐみの足を持ち上げながら優しく愛撫する“足キスシーン”だ。豊川にインタビューし、艶かしいラブシーンの印象。榮倉との共演の感想までを語ってもらった。
本作は、恋に臆病になっていた女性・つぐみと、彼女の元に転がり込んできた歳の離れた独身の大学教授・海江田との同居生活を描く大人のラブストーリー。撮影は1か月の間、合宿スタイルで行われた。「同じ仕事場にいって、同じところに帰って、同じご飯を食べてという繰り返し。僕はそういうスタイルの撮影が好きで、監督以下、キャストもみんながまとまっていくという感じがして、すごく楽しい現場でしたね」と充実の撮影を述懐。
結束力のあるチームとなったが、そんな中、相手役の榮倉を「幸福感を与えてくれる女優さん」と表現する。「榮倉さんとは今回が初共演だったんですが、撮影が進行するのと同じように榮倉さんとの距離も近づいていったと思います。一緒にいてすごくリラックスできる女優さん。それは良い悪いではなくて、気持ちの良い緊張感を与えてくれる女優さんもいるんだけれど、榮倉さんはリラックスしている中で一緒にお芝居をして、イメージが湧いてくるようなタイプの女優さんで。ものすごくつぐみ役には合っていたと思います」といい、撮影中は榮倉演じるつぐみに本気で恋をしていたそう。
つぐみに蹴りを入れられて海江田がひっくり返るシーンや、つぐみの元彼の中川(向井理)との乱闘シーンなどハッとするようなシーンも多いが、豊川が印象的なシーンとして上げるのが“足キスシーン”。「このシーンを撮る前は緊張しました。このシーンに限らず、自分の生理にない行為をするときって、他の役者さんもそうだと思うんだけど、やっぱり緊張するものなんです。やったことがあるようなことだったら、あのときはこうだったと想像がつくんだけれど、このシーンはいきなり足から行くので(笑)。どういう風にやればいいのかなと思ったりもしました」。
何度もテイクを重ねたそうで、「テイクを重ねるごとにやり方も変わっているし、とにかく色々なバージョンを撮りました」。その甲斐あって、西陽がすっと差し込むなんとも美しく、官能的なシーンが完成。「これは仕込みでもなんでもなく、偶然に窓からきれいに西陽が射してきて。すごく良いシーンになりました」と豊川自身も大満足の様子だ。
メガネやスーツなど衣装や小物にも自分でイメージしたものを持参するなど、積極的にアイディアを出し、大人の男の色気を放つ海江田役を見事に演じきった。『ジャッジ!』(13)では軽薄な広告マン、『春を背負って』(14)では無骨な山男を演じるなど、コミカルなものからシリアスな役まで、役者・豊川悦司の懐の深さにいつも驚かされる。豊川が「演じてみたい」と心を動かされるのはどのような役柄なのだろうか?
すると「キャラクターの種類として、前にやったものとは距離のあるキャラクターをやりたがる傾向にはあると思います。前はこういう感じだったから、今度はもっと違う男を演じたいという欲はすごく強いのかもしれない」とイメージを覆すことに貪欲な姿勢を告白。「僕は髪を伸ばしたり、切ったりなどビジュアルもいじる方なので、そういうこと自体が楽しいというのもあって。なるべく、前とは違うタイプの役を受けるようにはしています」。
役者という仕事への臨み方について聞くと、「若い時よりはずいぶんマイペースにやらせてもらっています」と穏やかに微笑む。「でも中身はそんなに変わっていないかな。これからも自分がやりたいと思うものに、出会っていきたい。それがこの仕事の一番面白いところだと思います」。変化と出会いを楽しみ、どんな役でも自分色に染め上げてしまう豊川悦司。大人の恋の切なさ、輝きを描く『娚の一生』で彼の魅力を堪能してみては。【取材・文/成田おり枝】
スタイリスト/長瀬哲朗