渡部陽一「戦場の犠牲者はいつも子どもたち」と訴える
本年度アカデミー賞で6部門にノミネートされたクリント・イーストウッド監督作『アメリカン・スナイパー』(2月21日公開)の試写会が、2月13日にスペースFS汐留で開催。トークショーイベントのゲストに戦場カメラマンの渡部陽一、モデレーターに朝日新聞国際報道部の望月洋嗣が登壇し、イラクの戦場を舞台にした本作について解説した。渡部は「僕自身、カメラマンとして見たそのままのもので、非常に生々しかったです」と重い表情で映画の感想を述べた。
戦場カメラマンとして世界中の紛争地を回った渡部は、「どの戦場でも共通していたこと。それは、戦場の犠牲者はいつも子どもたちという点です。最前線の現場では、そこに暮らさざるを得ない家族、子どもたちが犠牲になっています。カメラマンとして丁寧に世界の声を記録に残していきたいと、日々感じています」と真摯に語った。
さらに、イラク戦争で米軍の従軍カメラマンとしてキャンプで暮らした時の状況についても告白。「最前線に入ってきた若い兵士は、10代後半から20代前半の若者でした。彼らはインターネットの電話を使って、祖国に残った家族と電話をして泣いているんです。戦場にいる時は、アイゴーグル、防弾ヘルメット、防弾チョッキなどを装着し、見た目はロボコップのようですが、それを外すと、みんな若い今どきの若者たち。そんな戦場のギャップに、カメラマンとして心を揺さぶられました」。
さらに渡部は、兵士や戦場カメラマンたちが何度も戦場に足を運ぶ理由についても次のように激白。「兵士たちは『一度戦場に足を踏み入れたものは、必ず戻ってくる』と言ってました。中毒のような症状だとも。カメラマンの間では、“ウォーフォトグラファー症候群”とも呼ばれています。僕は、誰も戦場という狂気から逃れられないということを学びました」。
さらに『アメリカン・スナイパー』については、戦場の様子や米軍、イラクの人々の描写が実にリアルだったとうなる。「兵士たちは戻ってきても、戦争の病に苦しんでいます。戦場の狂気がいかにすごいか、プロの兵士であっても、自分を冒していくんです。でも、兵士の方々も日本で暮らしている私たちも、日常生活のなかでは、父として、夫として、過ごしている。今日、いま何をすべきなのか、何ができるのかを、この作品は揺さぶってくると思います。そういうことを考えさせてくれる映画だと感じました」。
『アメリカン・スナイパー』は伝説のスナイパーの真実を描いた衝撃作で、1月16日に全米3555館で封切られ、イーストウッド監督作の中で最大のヒットを記録。全米興行ランキングでは3週連続1位を獲得した。戦争映画としては、全米歴代興行1位を保持していたスティーブン・スピルバーグ監督作『プライベート・ライアン』(98)の全米興収約2億1600万ドルを超え、17年ぶりに記録を更新。全米ではハリウッドの枠を越え、政治の舞台でも賛否両論が巻き起こる社会現象となっている。【取材・文/山崎伸子】