シュワ、ゾンビ映画でカムバック!トライベッカ映画祭
『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(7月11日公開)で12年ぶりのシリーズ復活を果たすアーノルド・シュワルツェネッガーことシュワちゃんが、ゾンビ映画『Maggie(原題)』を引っ提げ、トライベッカ映画祭に参戦した。
最近では、アフリカを中心にエボラ出血熱が蔓延して世界中を震撼させたが、同作は、ゾンビウィルスに感染したアメリカで、ティーンエイジャーの娘をもつ父親と家族の愛と葛藤を描いたドラマだ。
ウィルスに感染した娘マギー役には、撮影当時には弱冠9歳でありながら第79回アカデミー賞助演女優賞にノミネートされた『リトル・ミス・サンシャイン』(06)のアビゲイル・ブレスリン。その父親ウェイダ役をシュワちゃんが熱演している。
残念ながらアビゲイルは直前に記者会見を欠席することになったが、シュワちゃんと共に、妻役を演じたジョエリー・リチャードソンと、同作が映画初監督作となるヘンリー・ホブソンが記者会見に応じた。
低予算映画ながら、記者会見が行われたのは高級老舗ホテルのウォルドルフ=アストリアホテル。ビシッとスーツで決めたシュワちゃんは、ご機嫌な様子で部屋に入ってくるなり開口一番「最初に質問するのは誰?何でも聞いてください」と声をかけ、会場を和ませた。
今まで大作、しかもコメディやアクション映画一辺倒だったシュワちゃんは、「この作品にも少しはCGはあるけれど、基本は一人一人のキャラクターにフォーカスしている人間ドラマだ。だからこれまで私が出演してきた作品とは、大きく違っている」
「アクションなら世界を救うことができるのに、娘がウィルスに感染しても父親として何もできないというジレンマと闘うだけ。人と人とのつながり、娘への無償の愛を描いたヒューマンドラマは自分にとっては初めての大きなチャレンジとなったが、やってみたいと思った」と同作に出演する経緯を語った。
また、ホブソン監督については、「多くの人から、映画監督の経験がない(グラフィックデザイナーでコマーシャルを制作している)ことについての不安を聞かれたが、答えはノーだ。大切なのは経験ではなく、確固たるビジョンを持っているかどうかだと思ってる。彼にはクリアなビジョンがあってそれが気に入ったから何の不安もなかった」
「そのビジョンを守るためにも、今回はプロデューサーもやりたいと思った。プロデューサーはあれこれ口を出す立場だから、監督の意思に反していろいろ変えられてしまうことがある」
「だから、自分がヘンリーを守らないといけないと思った。(『ターミネーター』シリーズ1、2でメガホンをとった)ジェームズ・キャメロン監督なら守る必要もないけどね」と話し、会場の笑いを誘った。
そのおかげで、「脚本の大きな変更はしなかった。低予算でスローペースな作品としてのテイストをそのまま大切に生かすことができた」とホブソン監督は語る。撮影場所をはじめ、ウェイダの住む家も、1つの家のリアリティを再現するために、4つの家の部屋を組み合わせたというこだわりようだ。
「ヘンリーは、メイクアップからコスチューム、セットまで完璧に準備していたし、どの役についても細かい原稿があったの。だからアーノルドだろうと、もし彼の思ったものと違う演技をすれば、直すように言ってきた。だからある意味で、なりきるのは簡単だった」とジョエリーは振り返る。
シュワちゃんも、「知事という仕事もそうだが、身体を鍛えるアクションよりも感情のトレーニングの方が難しい。いかに見ている人に、信じてもらえるような演技ができるかということに集中したが、そういう意味でこの作品ではメンタルのトレーニングは大変だったと言える。知事もそうだったが、自分がやりたいと思ったことだから辛くはなかった」
「それと最初に、ゾンビとして死にゆく人たちが床に多数転がっている病院を、かなり長い時間歩き回った。『これは現実なのか?』と思うほどリアルだったため、本当にどうしようもない失望感が生まれてきた」
「低予算ならではの最高のキャスティングだった。誰もが素晴らしい演技をしてくれたおかげで、自分もすっかり役に入り込むことができた。特に娘役のアビゲイルは、演技をしているとは思えないほど素晴らしい演技だった。本当に娘が死んでいくという気持ちに駆られて、感情が溢れてきた」
「またスタッフや機械が常にバタバタと動き回っている大作と違って、ゆっくりと撮影ができたので、集中してそのシーンに取り組めた。『ターミネーター』も最初は低予算映画だったが、スタッフやキャストの熱い熱意が伝わる現場だった」と、インディペンデント映画の醍醐味を語った。
これまでのシュワちゃんとは思えないのほどの渾身の演技に、「今後はオスカーを狙えるような作品に路線変更するのか」という問いについては、「『ターミネーター』の続編の話をもらったときは嬉しかったし、すでにコメディ映画の脚本もほぼ終わっていて、それはそれでとても嬉しいことだから、ドラマ俳優に転身するということは考えていない」
「ただ、過去は自分もギャラが多くもらえる映画ばかりを探していたし、そういう役のオファーばかりがきていたけれど、今は立ち位置が違っていることは確かだ。この役も約25年間、自分が父親だったからこそ、完全にウェイダの気持ちが理解できたし、演じることができた役どころだ」
「25年前なら受けなかったし考えられなかった。そういった意味で、以前よりいろんな役どころに挑戦していきたいとは思っている」と意気込みを語った。
ゾンビ映画にはとどまらないヒューマンドラマに仕上がったのは、まさに他のキャストを含む、シュワちゃんの演技の賜物。想像を超えた新たなシュワちゃんの魅力を発見できること間違いなしだ。【取材・文 NY在住/JUNKO】