『ひつじのショーン』の監督が語る、名作へのオマージュ

インタビュー

『ひつじのショーン』の監督が語る、名作へのオマージュ

ゆるくて愛嬌たっぷりのひつじのショーンが、ショートアニメを経て、遂にスクリーンに登場。『映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』(7月4日公開)は、思い切り笑えて、癒やされて、ドキドキハラハラする一大エンターテインメント作品である。本作を手掛けたリチャード・スターザック監督にインタビューし、本作の製作秘話について聞いた。

『ひつじのショーン』は、英国アードマン・アニメーションズが誇るクレイアニメだ。元々は『ウォレスとグルミット』シリーズの中編映画『ウォレスとグルミット、危機一髪』(95)に登場する脇役だったが、いまや本家を凌駕するほど大人気のキャラクターとなった。今回は、自ら起こしたトラブルが原因で、主人である牧場主が行方不明に。ショーンたちは街へ繰り出し、大奮闘する。

ユニークなのは、ショーンたちひつじの百面相の描き方だ。笑う時に口が横に飛び出るのがユニークだ。「ひつじたちは元々しゃべらないので、口がないのが基本なんだ。でも、テレビシリーズで、1人の絵コンテアーティストが、気持ちを表すために横に描いたのを見て、面白いと思ったので、その方法をそのまま残したんだ。人によっては奇妙だという意見もあるけど、慣れれば大丈夫だと思う」。

本作には、たくさん人気映画へのオマージュが捧げられている。「トランパー(動物捕獲人)に捕まり、ショーンが動物収容所へ行くシーンなどは『羊たちの沈黙』(91)などをはじめ、いくつかの映画へのオマージュが入っている。トランパーの手がキャラバンの下から出てくるのは『ケープ・フィアー』(91)だ。ショーンとビッツァー(イヌ)がうまくいったと最後にハグをし合うのは、ジョン・トラボルタの『グリース』(78)。また、トランパーが鏡を見て練習するのは、『タクシードライバー』(76)のロバート・デ・ニーロだよ」。

オマージュといえば、ショーンたちが肩車などをして人間に化けて、ビートルズの『アヴイ・ロード』よろしく有名な交差点を渡るシーンも楽しい。「サントラのレコーディングをアヴイ・ロードのスタジオでやったんだ。あの有名な横断歩道は、観光客がみんな真似をして渡るんだけど、2週間に1回くらい誰かが車で轢かれてしまうそうだ。私たちがサントラを収録した時も、2週間前にそういう事故が遭ったようだ。だからいまでは、横断歩道の場所を変えたみたいだよ」。

クレイアニメ作りは、かなり根気のいる作業に思えるが、それでもその方法にこだわり続ける理由について聞いてみた。「CGアニメもクレイアニメと同じようにとても時間がかかるから、その点では同じだ。ただCGが全部スクリーン上で処理をすることに対し、我々はセットを組んで、ワークショップをやるという点で大きな違いがある。現場へ行くと、そこにはセットがあり、まるで実写映画を作るような感じだ。俳優の代わりにアニメーターがいて、彼らがキャラクターを動かす。それは、実写の映画のやり方と非常に似ていると思う」。

監督は、子どもの頃にクレイアニメを観て、そこからかなり影響を受けたそうだ。「時々頭に来るのは、評論家が、クレイアニメは死にゆく芸術みたいなことを書いたりしていることだ。確かに、古風なやり方だけど、いまでもたくさん作られているよ。実際、実写の映画を撮っているような現場に行くことはとても楽しいから、いまはそれが続けられることがとても幸せなんだ。また、同時に我々のパフォーマンスは欠点もあると思うし、それがそのまま残ってしまったりして、表情も完璧とは言えない時がある。でも、逆にそれが実写らしくて良いんだ。CGだとすべてを完璧にしようとするけど、我々はリアルだからこそ、味わいがあると思っている」。

確かにどこか手作りのぬくもりが感じられるのが、クレイアニメの醍醐味だ。本作もしかりで、それぞれの味わい深い表情が動きがたまらない。とにかくひつじのパフォーマンスが最高だから、是非、彼らに会いに行ってみてほしい。【取材・文/山崎伸子】

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