竹野内豊が名優・緒形拳から受け取ったものとは?

インタビュー

竹野内豊が名優・緒形拳から受け取ったものとは?

俳優・竹野内豊。オフショットの物腰はとても穏やかだが、常に静かな熱い炎を胸のうちに秘め、不器用なくらい真っ直ぐに役者道を進んできた。最新主演作『at Homeアットホーム』(8月22日公開)は、犯罪で生計を立てる血縁関係のない家族を描く異色サスペンスだ。竹野内にインタビューし、役者としてのいまについて話を聞いた。

原作は、『真夜中の五分前』(14)や『ストレイヤーズ・クロニクル』(15)など、映像化が相次ぐ本多孝好の同名小説。竹野内が父親役を演じる森山家は、一見ごく普通の5人家族に見えるが、実は父の稼業が泥棒、母は結婚詐欺師で、しかも擬似家族である。母親役に松雪泰子、長男役に坂口健太郎、長女役に黒島結菜、次男役に池田優斗を迎えた。

「擬似家族とはいえ、一応家族の話ですから、そこをリアルに成立させることができたら良いなと思いました。森山家の撮影は、限りなく自然体でやっていて。台本にない何かが起こっても、その時、感じた気持ちのまま撮れたら良いなという気持ちがあったので、自然と信頼感が生まれていったんじゃないかと思います」。

坂口健太郎ら次世代を担う若手俳優たちとの共演では「改めて、気づくことがあった」と振り返る。「経験を積み重ねることは、すごく強さにつながると思うんですが、彼らは、僕がどこかに置き忘れてしまった大切なものをもっている。小手先でやっていないので嘘がなく、真実が宿っていて、はっとさせられる瞬間がありました。テクニックや技術はさておき、一生懸命やっている感じから、すごく刺激を受けました」と言う。

「役者バカになり、演技の世界に没頭していく情熱は、忘れてはいけないことだと思うし、素晴らしい役者さんの演技を学びたいと思う心はすごく大事です。でも、それ以上に人としての精神的な成長というのが、演技以上に大切なんじゃないかなと。最近は、自分のなかで何か変わりたい、新しいものにチャレンジしたいという思いが常にあり、いままでこだわってきたつまらないものが、自分のなかでどうでもよくなってきています」。

それは、40代半ばに入って感じてきたことだ。「この世界、近道は絶対にないし、もし、あったとしても、そこに行っちゃいけない。歩んでいくうえで、孤独感や苦しさは当然避けられないけど、きっと役者をしてなくて、どんな仕事をしていても、それは同じことだろうなと。目標地点にいかに最短で行くかというのは合理的な考え方だけど、実はもがくことの方が大事で、そこをたどるプロセスに、重要な何かがあるんじゃないかと思っています」。

さらにこう続けた。「それでもたぶん、何か答えを出せないことはわかっていて、これで良かったのかなというところで、人生が終わる。でもそれは諦めではなくて、自分の体が動かなくなるまでやって、たとえ自分の力でできなかったとしても、映画界全体がもっと世界に向けて頑張って、もっと成長していければそれで良いのかなと思っています」。

そのことを教えてくれたのは、亡き名優・緒形拳だ。「昔、ご一緒した時のことです。当時、緒形さんに『最近、映画が元気ないですよね』という話をして。そしたら緒形さんが『自分ができる、できないというのが問題じゃない。自分が生きているうちにそれが叶わなくても、思い続けていく気持ちが大事なんだ』と言われました」。

その言葉が、緒形拳ほどのキャリアを持つ俳優の口から出たことに、竹野内は驚きを覚えた。「その時は『すごいことをおっしゃるな』と思って聞いていましたが、どことなく漠然ととらえていました。でも、自分も40代半ばまで来て、“生涯”というものがだんだん見えてきて、死に関しての考え方が変わってきたので、そのことがだんだんわかってきました」。

終始、丁寧に言葉を模索しながら、あふれる思いを語ってくれた竹野内豊。胸に宿る炎の色は、涼やかだが、温度が高い青色のイメージ。その熱量はスクリーンからも伝わってくる。【取材・文/山崎伸子】

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