原案小説が直木賞候補!『ディア・ドクター』監督の才に拍手
笑福亭鶴瓶の映画初主演作『ディア・ドクター』が6月27日に公開され、ミニシアター作品ながらスマッシュヒットとなった。監督したのは『ゆれる』(06)で国内の映画賞を総なめにした西川美和で、本作でまた株を上げている。
MovieWalkerのユーザーランキングでも今週、堂々ナンバー1をマークした本作。土日の全国興行ランキングでは11位だったが、1館当たりのアベレージは、現在興行ランキング1位の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』、2位の『ROOKIES 卒業』に続いて3位なのだ。また、平日も初回からシニアを中心に満席の劇場が出ている。特に7月1日の映画サービスデーは、“全回”満席になる劇場もあり、初日動員対比121%、公開5日間で動員60,052名、興収71,511,730円と大健闘している!
さらに7月2日、第141回直木賞の候補作品に、西川美和監督が著した原案小説「きのうの神さま」(ポプラ社刊)が選ばれたというニュースが舞い込んできた。映画も小説も非常に高い評価を浴びている西川監督だが、彼女の物作りの姿勢には、ずばり“品格”を感じる。
常に自らが撮りたいテーマを徹底的にリサーチしてオリジナルの脚本を練り上げ、自分自身でメガホンをとる。その際、キャスティングや演出においても一切妥協なし。『ディア・ドクター』では鶴瓶から「信念があって、言わはることが的確!」と賛辞を受け、『ゆれる』の舞台挨拶でもオダギリジョーをして「才能に嫉妬しました」と言わしめた。
そんな彼女の姿勢は、『それでもボクはやってない』(07)の周防正行監督のものに通ずる。一般の映画ファンだけではなく、映画業界からも一目置かれ、映画製作においてあくまで自分の“オリジナル”にこだわる点だ。名声を得た監督には、企画ありきのメジャー系大作の監督オファーが山ほど来るであろうに、ふたりとも頑なに!?首を縦にふらず、自分が本当に撮りたい素材のみを追いかける職人肌の監督なのだ。
また、ふたりの映画に共通するのが“リアリティ”だ。ちなみに、痴漢の冤罪を扱った『それでもボクはやってない』(07)では、弁護士や法学生たちを招いた試写会を、そして僻地医療や高齢者医療を切り口にした『ディア・ドクター』では、医者や医療スタッフを招いた試写会を開催した。いずれの会も取材をしたが、本職の人々が「実にリアル。まったく違和感がない!」と舌を巻いたのが印象的だった。玄人も納得の出来は、ルポライターも真っ青のリサーチ力のたまものに違いない。
小説「きのうの神さま」が直木賞候補に挙がったのも、そのクオリティの高さゆえんだろう。7月15日の受賞結果発表が大いに気になるところだ。もちろん受賞を逃しても、今後クチコミで広がっていきそうな『ディア・ドクター』。西川美和監督の心意気をしかとごらんあれ!【Movie Walker/山崎伸子】