佐藤健に『せか猫』がピタリとハマる理由とは?

インタビュー

佐藤健に『せか猫』がピタリとハマる理由とは?

120万部突破の川村元気によるベストセラーを映画化する『世界から猫が消えたなら』(5月14日公開)。余命わずかと宣告された“僕”を佐藤健が演じ、あらゆる世代へ「生きる上でかけがえのないものとは?」「生きる意味、証とは?」と優しく投げかける愛の物語として仕上がった。「主人公の“僕”役は、佐藤健しかいない」と希望したのは他ならぬ原作者の川村元気だったとか。彼を直撃し、熱烈オファーの理由を聞いた。

主人公は、余命わずかの郵便配達員“僕”。彼の前に自分と同じ顔をした“悪魔”が現れ、「大切なものを一つ消すことと引き換えに、1日の命をあげる」と提案されたことから、“僕”の不思議な7日間が始まるファンタジックな物語だ。僕、彼女、母さん、父さんと登場人物たちに役名がないのが特徴。川村は「読者が自由に身近な誰かをイメージできるように名前をつけなかった」と普遍的な物語となるように本書に取り組んだ。

「映画でも小説でも、一方的に浴びるものではなく、観た人、読んだ人の人生がそこに混ざるといいなと思っているんです。僕はティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』という映画が大好きなのですが、それは自分の父親との関係のようなものが、そこに混ざったからすごく感動したんです。誰にでも、生きる上では後悔や悲しみ、喜びがある。完全に整備された作品よりも、そこに読者の人生が入り込む余地があるといいなと思って、いつもものづくりをしています」

本作を「ファンタジーを駆使した人間ドラマ」と表現する。その言葉通り、佐藤演じる“僕”を見つめることで、観客それぞれの思い出や考えも溢れ出してくるような映画だ。佐藤を観客の心を映す主人公として熱望したことについては、「佐藤くんは、個性を消せる瞬間があるんです。見ている側が、佐藤健ということを途中から忘れることができるような才能がある。妻夫木聡くんもそうですね。どこか世間になれるんです。主役になれる人は、そういう才能がある人だと思っています」と俳優力を絶賛しつつ、その理由を明かす。

なかでも“僕”が、原田美枝子演じる“母さん”に語りかける、海辺のシーンの演技には感動したそう。「もう芝居じゃないなと思ったんです。自分の母親に向けて言っているんじゃないかと思う切実さがあった。どこまでが俳優で、どこからが本人かわからない瞬間があって、すごくいいなと思いました」

映画プロデューサーでもある川村だが、「見ている人が参加者になれる映画が、一番面白いと思う」と話す。「『世界から猫が消えたなら』も誰もわかっていないような、突拍子もないことを書いているわけではなくて、みんなの頭の中の景色を書いたものなんです。でも頭の中の景色って、川の向こう側にあるもので。絵を描く人でも、小説を書く人でも、映画を作る人でも、そこに橋を架けるのがものづくりをする人の役割なのかなという気がしています」

「一人二役となる、僕と悪魔というシリアスとコミカルの両方の演技ができるのは、佐藤健しか思い浮かばなかった」というのも大きな理由だとか。原作者として「これ以上にないというキャスト、スタッフが顔を揃えた」本作。観客にとって、大切な人やものを得ながら歩んできた人生の道のりを改めて確認できるような、胸を打つ感動作とオススメしたい。【取材・文/成田おり枝】

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