園子温、妻で女優の神楽坂恵と宣言「今後、原作ものはやらない」

インタビュー

園子温、妻で女優の神楽坂恵と宣言「今後、原作ものはやらない」

園子温監督が、自身の設立したシオンプロダクションの記念すべき第1作に選んだのは、25年前に絵コンテを描き上げて以降、ずっと温めてきた作品『ひそひそ星』(5月14日公開)だった。研ぎ澄まされた崇高な世界観を体現したのは、園監督の良きパートナーで女優の神楽坂恵。園監督と神楽坂にインタビューし、本作の撮影秘話や、シオンプロダクションの今後について話を伺った。

『ひそひそ星』は、モノクロームのSF作品だ。宇宙宅配便の配達員をするアンドロイド(神楽坂恵)が、昭和風のレトロな内装の宇宙船で、人間にとっての大切な思い出の品を送り届けていく。メイン舞台である宇宙船のセットは、東宝スタジオに組まれたが、それ以外のシーンは、福島県の富岡町・南相馬市・浪江町でロケを敢行した。

神楽坂が「いつもどおり厳しく、ちゃんと追い込んでいただいた」と撮影を振り返る。なんと、ろうそくを灯しながら長いセリフを言うシーンで、20テイクも撮ったそうだ!

神楽坂が「絵コンテどおりだと灯りは持ってなかったんですが、その時変えたんです」と苦笑い。「火なんて消えるわけですよ。セットだから風が抜ける瞬間もあるし、あとでアフレコをするから、口の動きは合ってないといけない。まあ、そんなことも乗り越えながらやっていきました。他のシーンも今回は丁寧に、ゆっくりと時間をかけて撮っていきました」。

『ひそひそ星』を、『希望の国』(12)などで撮った東日本大震災の被災地・福島でロケをしたのには理由がある。「当時、彼女(神楽坂恵)を歩かせて、被災地の風景を撮ったんです。その時、政治的メッセージを入れない、福島の無人の風景を映画にしたいと思ったけど、それが何だかわからなかった。それで、シオンプロダクションの第1作を何にしようかと考えた時、福島を撮るんだったらいまが撮るチャンスじゃないかなと思ったんです」。

すなわち、『ひそひそ星』でやりたかったことが、福島とつながったのだ。「『ひそひそ星』のような映画に、誰もお金を出してくれないとは思っていたから、自分でやるしかないと。第1回にしてはずいぶん実験的な映画だったけど、やって良かったです。たぶんいま、ロケ地の風景は、全部変わっている。そういう意味でもメモリアルというか、記憶のために撮っておいて良かったです」。

神楽坂は、『自殺サークル』(02)などの初期の園監督作から、『ひそひそ星』までを振り返り「私が劇場で初めて園監督の映画を観たのは、『気球クラブ、その後』(06)でした。どの作品を観ても、『ああ、園子温だな』と思うけど、『ひそひそ星』には、これまでのもの全部がちりばめられています」と言うと、園監督自身も「25年前の映画だから、こっちの方が本当かもしれない」とうなずく。

「『自殺サークル』(02)は、海外に打って出ることだけを考えて作ったんです。それはAKB48だったらブレイクしないけど、BABYMETALだったらブレイクするという構図と同じで、何か突出したものでないと、向こうでは受けないと思った。

もし、当時『ひそひそ星』を撮ることができて、ある程度、受け入れられていたとしたら、きっとその路線で行っていたかも。たとえばフォークシンガーになろうとして、一向に売れないから、ある日、メイクして血を吐いたら、めっちゃウケたので『ああ、このラインだ』と思うのと同じことで。ハッタリをかまして、急にヘビメタに転向してみたけど、裏側にはアコースティック1本でやりたいものがある。実を言うと、『冷たい熱帯魚』(10)は、僕の中ではハッタリ系だったんです」。

自身のシオンプロダクションでは、今後自分が作りたい映画を撮っていくと決めた。「いま、いちばん良い時期で最悪な時期でもある。現状では、製作費においても不可能なものが多いから。次のエンタメ映画はハリウッドでやりたいし、それはもう進めている。

日本では、低予算でいいからオリジナルを撮りたい。これを機に、小説や漫画が原作の映画はもう撮らないと決めたんです。そもそも『ヒミズ』(12)以前は全部オリジナルだったので。大会社さんから注文が来ても、お断りしました。まあ、彼女にとっては、家族としてどうかなと思うだろうけど」。

神楽坂恵は「やりたいことをやってもらえればと」と懐の深さを見せる。「去年は忙しくて、性格が荒れていたので(苦笑)。お金は大事かもしれないけど、イライラした状態が続くのは、作品にとっても良くないし。原点に戻るというか、ちょっと1回リセットして、心を落ち着かせる感じですね」。

インタビューで改めて感じたのは、園子温のオリジナルに対する熱い情熱と、それを支える神楽坂恵の内助の功の素晴らしさ。『ひそひそ星』は2人の絆と愛が結実した映画でもある。【取材・文/山崎伸子】

作品情報へ