カンヌ映画祭、後半の話題作を振り返る
第69回カンヌ国際映画祭の後半11本をやっと見終わった。
後半で話題になったのは『バカロレア』と『イッツ・オンリー・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』の2本。
フランス系の星取表ではバカロレアが、国際系の星取表では『イッツ~』が、と微妙な争いを展開している。『バカロレア』はルーマニアのクリスチャン・ムンギウ、『イッツ』はカナダの神童グザヴィエ・ドランの作品。どちらも今迄の作品とは少し趣の違うところがあって、興味深い。二人ともカンヌが育て上げた監督であり、その作家としての成長を見守るカンヌとしては満足の行く出来の新作であったろう。
常連のベテラン作品としてペドロ・アルモドバル監督の『フリエッタ』は「シネマ・フランセーズ」誌が良い点を付けているが「スクリーン」誌と「ガラ」誌はアベレージよりもちょっと上という評価である。
批評家連盟の賞はすでに長編コンペに対しては『トニ・アードマン』に決定しているが、『シエラネバダ』『パターソン』『バカロレア』にも高い評価が集まっている。『フリエッタ』はその次に続くという位置にある。ドランに関しては人気先行という評価なのか悪くはないが、飛び抜けてはいないという感じなのだろう。
日報の評価だけみているとだいたい8本の作品に評価が集まっていることがわかる。しかし、毎年これが当てにならないことはわかっている。審査員の考えと記者や評論家の考えが一致するとは、ほとんど思えない。
時々、それが一致する時は、例えば昨年の『サウルの息子』やミハエル・ハネケ監督の『愛、アムール』、レア・セドゥが出演した『アデル、ブルーは熱い色』のような「これしかない」という評価の時で、その作品は少なくとも何らかの賞を受賞するものだ。今年は『トニ・アードマン』にその可能性がある。
あと数時間で授賞式だが、授賞式には受賞の可能性のある人たちに出席の打診があるのだという。深田監督も「当日午前中に、”授賞式に来てくださいね”と連絡があって、何かもらえそうだとはわかっていました。けれど審査員賞だということはその場にならないとわからなかったので、あの喜びは本物です」と言っていた。なので、今日あたりのカンヌは「あの人を見かけた。あの作品が獲るらしい」と記者たちの噂がかしましい。それによるとパク・チャヌクとジム・ジャームッシュが何か獲るのでは、ということになっている。
最終組の上映になったので日報の評価は出ていないがポール・バーホーベン監督の『エル』、アシュガール・ファラハティ監督の『セールスマン』も面白かった。久しぶりのバーホーベン趣味炸裂の作品で異様に強い女を演ずるイザベル・ユペールが圧巻であったし、ファラハティ監督の倫理を問うミステリーというテーマが見事な変奏曲となって作品化されており、最後に来て気が抜けないぞ、という感もある。
ともあれ、長いようで短かった11日間の映画祭。とうとう最終日。間も無く今年の受賞作が決まる。【取材・文/まつかわゆま】