“ポスト宮崎駿”と称される新海誠の『君の名は。』はココがスゴい!
『秒速5センチメートル』(07)や『言の葉の庭』(13)など意欲的に作品を作り出してきたアニメーション監督・新海誠。『バケモノの子』(15)のヒットでその地位を確固たるものにした細田守のように、“ポスト宮崎駿”として今最も期待を集めている新海監督の最新作『君の名は。』がいよいよ8月26日(金)に公開となる。初のメジャー作品となった本作で、特に鑑賞の際にチェックしてほしい“新海ワールド”のポイントをまとめてみた。
新海作品を語る際に必ず挙げられるのが、風景描写の精緻さだ。新宿御苑を舞台にした『言の葉の庭』では、庭園から望むことができる新宿のビル群を細かく描いたり、通常アニメでは動きをつけないような背景奥の草木にまで動きをつけたりと、描き込み方がとにかく繊細。実在の風景からそのまま一部を切り取ったような感覚を覚えるほど、新海作品は写実的だ。
多くのファンが作品舞台の風景を求めて聖地巡礼をするほど、毎回高いクオリティを誇っているが、その制作の裏には秘密がある。新海は自ら土地に出向きロケハンをし、描く風景を写真に収めているのに加え、絵コンテではなくビデオコンテで修正を重ねて精度を上げていくという、日本では珍しい手法で制作を行っている。より完成形を意識した作品づくりにこだわり、精密度の高い風景描写へとつながっているのだ。
また、写実的でありながらも、宮崎作品に感じるような情緒にあふれた風景をつくり出すことでも知られる新海監督。特に日中にさす木漏れ日や、夜空にかすかに光る星など、光の表現は印象的だ。『君の名は。』でもそんな新海ワールドは健在で、淡い光を放ちながら彗星が夜空を流れるシーンは圧巻の一言。思わず息をのんでしまうほどの美しさとなっている。
最新作では、そんな彼の特徴が存分に発揮されているが、さらに進化を見せたのがエンターテインメント性だ。これまでにも男女のすれ違いを幾度となく描いているが、『秒速5センチメートル』に象徴されるように、主人公が自身の中で葛藤する一個人の切ない話が多かった。
しかし「誰もが楽しめるエンターテインメントの“ど真ん中”を作りたかった」という言葉通り、『君の名は。』では個人の殻を突き破り、世界を巻き込んでしまうほど壮大なストーリーに。そんな中でも、田舎特有の狭い世界で生きる思春期の煩わしさや、都会の男子高生が育む、付かず離れずの絶妙な距離感の友人関係など、誰もが共感できるポイントも忘れずに盛り込まれている。
また本作では、『もののけ姫』(97)を始めスタジオジブリで活躍してきた安藤雅司が作画監督を担当、キャラクターデザインを『心が叫びたがってるんだ』(15)の田中将賀が務めるなど、新海の脇を固める制作陣も実績のあるアニメーターが名を連ねており、スタッフィングの面でもメジャーにふさわしい作品の仕上がりになっている。
これまでの作品では、“泣ける”世界観でファンを増やしてきた新海誠。“誰もが楽しめる”作品に挑戦した本作で、国民的アニメーション監督としての地位に一歩近づくのは間違いないだろう。ぜひ劇場で、アニメーション映画の新たな可能性を感じてほしい。【トライワークス】