実際の事件からインスパイア!監督が明かす『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』の誕生秘話
それから数年が経ち、チューが本作を監督してくれる人を探していたタイミングで、シャイナートは再びこの物語と出会うこととなったという。「ちょうど自分の生い立ちを振り返っていた時期で、小規模な映画でも地元のアラバマで映画が撮れることがうれしくて引き受けたんだ」。その頃“ダニエルズ”でも新たな映画を作る話が進んでおり、クワンが脚本を構築している真っただなかだったとのことで「僕がいるとクワンの作業を邪魔してしまうからね(笑)。だから今回はひとりで監督を務めることにしたんだ」と、単独監督に挑んだ経緯が明らかに。
ミュージックビデオやショートフィルムなど、これまで常にクワンとコンビを組んできたシャイナート監督。初めて単独で長編作品の監督をしてみた手応えを訊ねてみると、「一番の違いは、ダン(クワン)とやっている時と違って喧嘩する相手がいないということだね」と微笑む。それでも制作の途中にクワンからアドバイスをもらったとのことで、「彼は編集初期のバージョンを見てすぐに、たくさんのアドバイスとダメ出しをくれたんだ。周りにいたほかの人たちはみんなビックリしていたけれど、僕は彼の言うことに従ってみたんだ。するとすごく良い作品になった。やはりダンの意見は正しいと、改めて思えたよ」と、“ダニエルズ”の信頼関係の強さをのぞかせた。
前作『スイス・アーミー・マン』に続いて、気鋭の映画スタジオA24とタッグを組んだシャイナート監督。「前回は配給だけだったけれど、今回は製作から関わってくれたおかげで、より親密になれたし良い作品が作れたと思うよ」と、作家性を尊重し自由なクリエイティブを認めてくれるA24のポリシーに感謝を述べた。「まるでクラブ活動のような感じで、これまでA24で作品を作ってきたほかの監督たちとも仲良くなれたんだ」と、『ムーンライト』(16)のバリー・ジェンキンス監督や『ミッドサマー』(19)のアリ・アスター監督とも親しくなったことを明かし、「今後彼らとのつながりを活かして、なにかおもしろいことができたらいいなと思っているよ」と目を輝かせた。
文/久保田和馬