島根・出雲などを描いた『神在月のこども』…東京ロケーションボックスが結んだ“縁”をたどる
本作の製作について語るうえで欠かせない人物が、作品が持つ世界観や舞台の魅力を伝えるコミュニケーションをデザインしてきた「cretica universal」の代表であり、今回、原作とコミュニケーション監督を手掛けた四戸俊成、同組織の副代表であり島根県出身のプロデューサーである三島鉄兵の2人だ。長年、ハリウッドの話題作など劇場作品を宣伝プロモーションという側面から関わってきた彼らだったが、これまでずっと温めてきた「世界を感動させるクリエーションを生み出したい」という四戸の想いと、かねてより胸に抱いていた「島根の故郷にあるロケーションに貢献したい」という三島の願いが合致。ある種、グローバルとローカルな対極にある2つのモチベーションが、折しも、2021年の東京五輪、2025年の大阪万博と、この島国に世界が衆目する時流の中で一つとなり、その島国の根と書く島根・出雲や、そこに在る“ご縁”の魅力を紐解くアニメーションの企画が誕生した。日本の原風景を宿すアニメを世界に発信する構想をはじめたのが2013年、企画化したのが2017年、脚本化したのが2018年と数え、実に7年越しでアニメ化を叶える制作が始まったという。
カンヌ国際映画祭でつながった東京ロケーションボックスとの“縁”
『神在月のこども』と東京ロケーションボックスがつながるきっかけとなったのは、世界三大映画祭の一つ、カンヌ国際映画祭だった。のちに本作の統括プロデューサーを務めることになるオシアウコが、別作品である前作を2017年の第70回カンヌ国際映画祭のジャパンブースへ出展。翌年にも継続してポスターの掲出等が行われたことで訪れた同ブースで、出展していた東京ロケーションボックスのスタッフとオシアウコ、さらには同行していた四戸が顔を合わせることに。その時について企画の発起人となった四戸と三島は、「異国の地、カンヌでの“縁”がきっかけで三社(者)が意気投合し、物語の原風景が描かれていくことになりました。東京ロケーションボックス様からは、アニメーションで描くロケーションの許認可の取り方や裏取りの方法について一から教わりました」と口を揃える。
「東京ロケーションボックス」という名称ではあるが、同組織は東京で撮影され、支援した作品を全国にプロモーションしている。また、全国のフィルムオフィスが連携する「ジャパン・フィルムコミッション」の一員として全国各地のネットワークとも連携できる側面も持ち合わせているため、アニメーション制作自体が初めての三島らは、そのサポートを受けながら全国でロケハンを敢行。「作品の原風景には、文化性に富んだ美しく風情の残るロケーションを選定しました。日本にある魅力を世界にアニメーションで届けることをイメージしながら、何百、何千回とシャッター音を鳴らし、たまにご当地の名産にも触れながら、丸2年かけてシナハンやロケハンを重ねた記憶がいまも鮮明に思い出されます」という三島の言葉からも、東京ロケーションボックスの果たした役割が大きかったことは想像に難くない。
地元メディアからの応援も受けながら制作は進む
ロケハン時に一度、挨拶を交わしたきりになっていた現地の島根フィルムコミッションとも、東京ロケーションボックスの手引により今年、約一年半ぶりの再縁が叶う。さらにご縁が相まって、いまでは、山陰地方の最大手メディア、山陰中央テレビジョン放送の番組で特集が組まれ、山陰中央新報社でも三島による連載コラム「ご縁の成る記」が映画公開まで掲載されるなど、地元メディアの手厚い応援を受けるまでになった。
これらの多岐にわたる宣伝、PR協力のなかでも、特に三島を感激させたのが、地元の観光ガイドのビジュアルに本作が選ばれたことだ。「島根県出雲市が毎年刷新されている『神在月出雲』公式ポスター、リーフレットの本ビジュアルに、稲佐の浜を描いた映画『神在月のこども』のコンセプトアートを活用いただけることになりました」と三島が語る通り、この取り組みによって地元の人だけでなく、多くの観光客にも本作のことを知ってもらえる機会となるはずだ。
様々な“縁”の結びつきによって制作が進められ、数多くの協力も得てきた『神在月のこども』。それらに対する三島をはじめスタッフ陣の感謝の気持ちや、作品にかける思いは公式サイトで定期的に更新される“制作追体験ムービー”でも確認することができる。具体的なロケ地に関する情報はまだ秘密とのことだが、文化性に富んだ美しく風情の残るロケーションを選定し、丸2年をかけてシナハンやロケハンを行ったということなので、それらの要素がどのようにエピソードに盛り込まれているのか、いまから本作の公開を心待ちにしたい。
文/トライワークス
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