ドラマとドキュメンタリー、二つの切り口で見つめる“戦場カメラマン”の生き様

コラム

ドラマとドキュメンタリー、二つの切り口で見つめる“戦場カメラマン”の生き様

9月26日(土)より完全オンライン配信にて開催されるSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020。世界中から国内未公開作が集まるのがこの映画祭の魅力だが、今年は国際コンペティション部門に思いがけなくも“戦場カメラマン”を主人公にした2本の映画が並ぶこととなった。

1つは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えたカメラマンと、難民として暮らす男との友情を描いたヒューマンドラマ『南スーダンの闇と光』。そしてもう1つは、実在の写真家に密着したドキュメンタリー『戦場カメラマン ヤン・グラルップの記録』だ。端的に言って、どちらも自信を持ってお勧めできる高品質の仕上がりで、非常に見応えがある。

「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」はオンラインで開催
「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」はオンラインで開催

同じテーマを二種類の切り口で見比べる鑑賞体験

すでに、これまでトロントや釜山などの映画祭で好評を博している『南スーダンの闇と光』の主人公は、戦地での体験によってPTSDを抱えた著名な戦場カメラマンのダン(ヒューゴ・ウィーヴィング)。彼は拠点となるシドニーに戻って写真展の準備を進めるさなか、南スーダンからの難民セバスチャン(アンドリュー・ルリ)と知り合う。彼はダンの代表作でもある、写真の展示をやめるべきだと主張するのだが、やがて事態は予想外の展開を迎え…。

PTSDを抱えた戦場カメラマンをヒューゴ・ウィーヴィングが演じる!
PTSDを抱えた戦場カメラマンをヒューゴ・ウィーヴィングが演じる![c]2019 Hearts and Bones Films Pty Ltd, Spectrum Films Pty Ltd, Lemac Films (Australia) Pty Ltd, CreateNSW and Screen Australia

主演のヒューゴ・ウィーヴィングと言えば「マトリックス」シリーズのエージェント・スミス役や「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのエルロンド役があまりに有名だ。彼のようなベテラン俳優が物語の中心となることで作品の安定感は増し、そこに演技初挑戦のアンドリュー・ルリが謎めいた存在感を添える。これぞまさに“演技の化学反応”と呼ぶべきものだ。両者の抱える心の痛みや、大切に育まれていく友情に想いを馳せることのできる秀作である。

一方、『戦場カメラマン ヤン・グラルップの記録』は、数多くの国際的な受賞を誇るフォトジャーナリストに密着したドキュメンタリー。戦地の状況や、そこで暮らす人々の日常を命がけで世界へ伝える彼は、自宅のあるコペンハーゲンに戻ると4人の多感な子どもたちを育てるシングル・ファーザーでもある。子どもたちのためにも自分は絶対に死ねない。この仕事の稼ぎで、彼らを立派に育てあげねば…そんなグラルップの気持ちが画面越しに伝わってくる。戦場と家庭、まったく異なる2つの領域を往復する男の生き様が、我々の心へ様々な思いを去来させる1作だ。

シングル・ファーザーのフォトジャーナリストを追ったドキュメンタリー『戦場カメラマン ヤン・グラルップの記録』
シングル・ファーザーのフォトジャーナリストを追ったドキュメンタリー『戦場カメラマン ヤン・グラルップの記録』[c]Good Company Pictures

これら2作はいずれも9月26日(土)9:00から配信開始されているので、ぜひ両作品ともご覧いただきたいところである。そうやって語り口の違うフォーマットに身を任せて彼らの生き様を見つめることで、その職業への理解、共感が深まっていくことは間違いない。
また、フィクションだからこそ寄り添える部分、ドキュメンタリーだからこそ描くことのできた部分がこの“見比べ”によって鮮明化するのもおもしろいところだ。前者はストーリーとして集約していく過程に、作り手の“願い”や“祈り”にも似た想いがひしひしと感じられるし、一方の後者は、ヤン・グラルップという被写体の一挙手一投足を逃すまいとする6人の撮影監督たちの執念が際立つ。各々の特色が、作品を観ているいる最中に、そして鑑賞後改めて余韻を噛みしめる段階になって、より強く胸に迫ってくるのである。

【写真を見る】フィクションとドキュメンタリー、見比べることによって浮き彫りになるそれぞれの特徴とは…
【写真を見る】フィクションとドキュメンタリー、見比べることによって浮き彫りになるそれぞれの特徴とは…[c]2019 Hearts and Bones Films Pty Ltd, Spectrum Films Pty Ltd, Lemac Films (Australia) Pty Ltd, CreateNSW and Screen Australia

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