短い上映時間に詰め込まれたメッセージを読み解け!「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」入選作品に見る短編の楽しみ方
9月26日(土)から動画配信で開催されるSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020。今年で17回目を迎える本映画祭は、過去に『凶悪』(13)、『孤狼の血』(18)などの白石和彌監督、『浅田家!』(10月2日公開)などの中野量太監督、『カメラを止めるな!』(17)の上田慎一郎監督らを輩出。若手映像クリエイターの登竜門として知られているが、『淵に立つ』(16)、『よこがお』(18)などの深田晃司監督、『横道世之介』(12)、『モリのいる場所』(18)などの沖田修一監督らが審査員を務める今回の国内コンペティションの短編部門にも、286本の応募作品の中から監督の才気と独自の視点が感じられる魅力的な9本がエントリーされており、どれも観逃すことができない。
そもそもこの短編部門は15~60分の作品が対象だが、その短い上映時間のなかで物語やテーマを独自の映像表現で観る者に伝え、鮮烈な印象を残さなければいけない性質上、作り手のスキルやセンスがはっきりとわかるもの。逆の言い方をすれば、その短い時間の中で自分の力をストレートにアピールできる、作り手にとっては格好のフォーマットでもあるから、今回の9本も独自の輝きを放つ魅力的な作品ばかりがそろっている。
短編の特性を利用した1シチュエーションでの作劇にどんどん前のめりに
例えば、古い空き家で共同生活を送る男女のもとに、村の役所から派遣された男が退去勧告に来るところから始まる藤田直哉監督の『stay』。短編の特性を利用した1シチュエーションでの作劇に、この監督の挑発的なスタンスがすでにうかがえるが、その限られた空間で交わる練りに練られた最低限のセリフと、計算され尽くしたカメラワークだけで不穏な空気を作り上げていくため、観る者は、彼らはいったい何者?なにが行われているの?微妙に映らない2階にはなにが?と、どんどん前のめりになる。
どこまで見せて、なにを見せないのか?そのバランスが絶妙で、しかもその心理サスペンスに田舎の集落における問題をさりげなく忍ばせるあたりはさすがと言うしかない。その知的なタッチは東京藝術大学大学院映像研究科の先輩でもある『寝ても覚めても』(18)の濱口竜介監督を彷彿とさせるほど完璧で、藤田監督が最も苦労し、楽しんだに違いないその緊張感のある世界観こそ本作の最大の魅力だろう。ただ、そこにずっと浸っていられない短編ゆえの物足りなさを感じたのも正直なところ。俳優のリアルな芝居も引きだした彼が長編に挑んだらどんな作品を産み落とすのかも知りたいし、早くその日が来てほしいと切望する。
大自然や洋風建築などの映像にキリスト教徒の歴史を印象づける構成が秀逸
CMディレクターの大森歩が監督した『リッちゃん、健ちゃんの夏。』も、ピュアな初恋物語を少し特殊な舞台で描くことで作品に深みと厚みを加え、多くのことを考えさせるものへと昇華させているのがおもしろい。その舞台とは、世界遺産にも登録された長崎の黒島。本作は、その島に住む“大人”の健ちゃんと、あの手この手で彼を振り向かせようとする中学二年生のリツ子のひと夏の共同生活を眩いタッチで映しだす。だが、その瑞々しい時間が、健ちゃんが教師でリツ子が教え子であることがはっきりわかるあたりから変調する。
昨年も短編部門に、美大生と痴呆症の祖父との関係を見事に描いた『春』(19)でノミネートされた大森監督。今回は教師と教え子の禁断の恋をただの胸キュンラブストーリーに終わらせず、そこに黒島に伝わる迫害された潜伏キリシタンの知られざる歴史を浮かび上がらせる語り口が斬新だ。
恋人たちのかけがえのない時間をホームムービーのように映しだし、島の大自然や洋風建築などの映像でキリスト教徒たちの歴史を印象づける短編ならではの構成が秀逸。少女の置かれた状況を歴史的事実と絡めて短い時間で描くのはなかなか大変だったと思うが、大森監督はそれをCMで培った映像表現でまんまとクリアしているから驚く。なかでも、CMやMVで活躍する主演の武イリヤのなんとも言えない表情を捉えたラストシーンでは、ねらいすましたかのような圧巻のショットが連続して炸裂!その非凡なる才能で、映画の世界にもっともっと活動のフィールドを広げていってもらいたい。