短い上映時間に詰め込まれたメッセージを読み解け!「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」入選作品に見る短編の楽しみ方
在日外国人と日本人との、ディスコミュニケーションの現実に真っ向から挑む
朴正一監督の『ムイト・プラゼール』も、私たちが知らないこの国の一つの現実を映画ならではの表現でまざまざと見せてくれる力強い作品だ。国際交流部に所属する高校生たちが、茨城にある日系ブラジル人学校を訪れ、彼らと交流を図ろうとする。だが、転入した日本の学校でイジメに遭い、日系ブラジル人学校に戻ってきたアマンダをはじめとする在留外国人の彼らは、遠足気分の日本の高校生たちに怒りを爆発させて…。
私たちは、日本で暮らしている外国人の子どもたちがどんな暮しをしているのか、どんな悩みを抱えているのかあまり知らない。それだけに、本作に登場するブラジル人の彼らが口にする日本人からの度重なる差別やイジメの現実に衝撃を受けるが、そんな在日外国人と日本人との間の問題、ディスコミュニケーションの現実に朴監督は真っ向から挑んだのだから、それだけでもスゴい。しかも、ドキュメンタリーと見間違うぐらい、登場するブラジル人たちの表情や仕草が自然で、聞けば彼らは演技経験がない、本作のキャラクターと同じ悩みや怒りを抱えた素人と言うではないか。いったい朴監督は彼らをどう説得し、あの自然な芝居を引きだしたのだろう?その苦労は想像に難くないが、それを乗り越えて彼らの生の声をリアルな表情とともにまんまと映しだした才能と力は本物だ。
それこそ、日本の高校生たちに牙をむく彼らの怒りを短い時間の中でどう沈めるのかと思って観ていたら、国際交流部の教師、金本の衝撃の告白で氷解させるという短編ならではの驚きのシチュエーションを用意する周到さ。金本に扮した鄭順栄の圧巻の芝居も手伝って、張り詰めていた緊張感を一瞬で和らげ、観ている私たちの心も穏やかな状態にしてしまうのだから末恐ろしい。長編を撮ったらどんな問題に目を向け、どんなタッチで切り取るのか?自然とそう思わせてくれるこの監督の将来が楽しみになった。
もちろん、この3本以外にも、『葛城事件』(16)、『愛がなんだ』(19)などで知られる実力派俳優の若葉竜也が監督した『来夢来人』をはじめ、新たな才能を感じさせるオリジナリティあふれる注目作が結集した今回の短編部門。今年はオンラインで誰でも、どこにいても観ることができるいい機会なので、賞の行方を見守りながら、将来の大監督たちが初期衝動のままに撮ったショートムービーたちと出会ってみてはいかがだろうか?
文/イソガイマサト