オンラインとリアルでの映画祭開催、それぞれの課題やメリットを映画祭主催者と考える【映画祭座談会・後編】
「オンラインの場合、やはりどこからもアクセスできるというのはとても大きなメリット」(長谷川)
ーーぴあフィルムフェスティバルは入選作品17本をはじめ、いくつかのプログラムをオンラインで配信。リアル、オンラインのどちらでも楽しめるハイブリッドの映画祭となります。
荒木「そうなんです。コンペティションはすべてオンラインで観ることができます。招待作品や、この映画祭でしか観られないロイ・アンダーソン監督特集も観られますよ。私は、上映作品をなんとか全国に届けたいと思っていて。全国に映画を届けることって、本当に大変なんです。だからこそPFFでは、オンラインとリアルでの両方の車輪で進もうということを、何年も前から決めていました。いまやらなければと思ったことを、少しずつ、実現してきたんです」
長谷川「PFFさんはすでにオンラインでの上映を行なっていらっしゃって、オンラインのよいところも知ったうえで、リアルでの上映も行うという判断をされた。すばらしいなと思います。我々はこれまで一切、オンラインには踏み込んできませんでしたので、今年はその苦しみを感じました。世界とつないでコンペの審査会を行いますので、どうなるのかと不安もありますが、同時に楽しみでもあります」
ーー皆さん、オンラインも活用されるとのことですが、メリットに感じているのはどのようなことでしょうか。
長谷川「オンラインの場合、やはりどこからもアクセスできるというのはとても大きなメリットです。(毎年、埼玉県で実施される)SKIPシティ国際Dシネマ映画祭は、駅から会場までバスを利用していただくなど、立地的な条件もありますので、興味はあったけれど、これまでなかなか来られなかったという方もいらっしゃると思います。そういった方々が作品を観ていただける機会になればと、期待しています」
荒木「マーケットに関しても、たくさんのチャンスが生まれていると思います。いままで現地に行く予算のなかったプロダクションや、インディペンデント系の関係者たちが、映画祭のマーケットに参加できるようになったという話も、実際に聞いています。世界中で映画産業が衰退しているなか、若い世代が入ってきて、映画界が活性化される。そのいいチャンスになるのではないでしょうか」
菊地「東京国際映画祭と併催される、TIFFCOMというマーケットがあるのですが、そちらはすべてオンラインで実施することになりました。荒木さんがおっしゃっていたように、敷居が低くなって、たくさんの方がマーケットに参加できるようになるのではと思っています。もちろん、直接会って交渉する楽しさには代えがたいものがありますが、実際に商談できる数は、リアルよりも確実に増える気がしています」
「人と人との化学反応で生まれるものって、とても大事なものですよね」(荒木)
ーー変化や変更を求められるなかで、新たな可能性が見えてきたこともありますか?
荒木「やはりいま実感しているのは、見知らぬ人や、憧れの人に、自分のつくった作品を観てもらって、それに対しての反応をもらうなど、直に対話をすることに代わるものは、見つからないということ。人と人との化学反応で生まれるものって、とても大事なものですよね。PFFでは監督と俳優とで、映画のクリエイションについて深く話すことを推進していますので、そういった生のトークも充実しています。ぜひこれらもお楽しみいただきたいと思っています。ただそんな状況のなか、PFFの今年の入選作で、4人の制作メンバーがリアルでは一度も会わずに制作した『LUGINSKY』という作品があります。メールでやり取りをして完成させたそうです。こういったタイムリーな作品が出てきたことには、ちょっと感動しましたね。映画界にもいろいろなことが起きています。今年の映画祭も、なにが起きるのか楽しみです」
菊地「オンラインでやるのか、リアルで行うかなど、お客様、そしてクリエイターにとっても選択肢が増えたと捉え、柔軟に対応していきたいなと思っています。東京国際映画祭は、“映画の未来を創造する”こともビジョンの一つとして掲げています。そのなかで、中学生を対象にした『TIFFティーンズ映画教室』という企画も行っています。映画監督を講師に招いて、夏休み中にワークショップのような形で実際の映画づくりを体験してもらうんです。これまでは中学生に東京都内に集まってもらって実施していたのですが、今年はそれが難しい状況になりましたので、すべてオンラインでやるという史上初の試みにチャレンジしています。講師は、『きみの鳥はうたえる』の三宅唱監督。オンラインで集まった中学生たちが、どのような作品をつくるのか。僕自身、とても楽しみにしています」
長谷川「オンライン開催もやってみて、どうなるのか。新しい試みとなりますが、やってみて見えてくるものがあると思います。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭は毎年、地域の方々が参加してくださる映画祭でもあって。地元の方からお電話で、今年の開催状況についてのお問い合わせがあったりするので、きちんと地元の方々にも情報を発信していく必要性を感じています。今回、オンラインで参加してくださって『オンラインも観やすいな』と思っていただけたら、そういったご意見も来年以降の参考にさせていただきたい。また今年はコンペに特化して開催することになりましたので、お客様には当映画祭のコンペの特色をぜひ楽しんでいただけるとうれしいですね。国内外から長編3作目までの監督を対象にコンペ作品を募っていますが、そうすると、日本の若手監督の作品と、著名な俳優の出演するヨーロッパの予算のかかった作品が、同じ土俵でコンペにかかるという状況も起きるわけで。その点も、おもしろいのではないかと思っています」
取材・文/成田おり枝
■第42回ぴあフィルムフェスティバル
9月12日~9月26日で開催
「PFFアワード2020」入選作品全17本を10/31(土)まで期間限定で配信!!
【配信プラットフォーム】
・DOKUSO映画館
https://dokuso.co.jp/lp/pff2020
・uP!!!
https://bit.ly/3jOrkhR
■第33回東京国際映画祭
10/31(土)~11/9(月)で開催
公式サイト:https://2020.tiff-jp.net/ja/
⽇本で唯⼀の国際映画製作者連盟公認の国際映画祭。1985年に始まり、いまや最も熱気溢れるアジア映画の最⼤級の拠点となった東京に世界中から優れた映画、映画⼈、映画ファンが集まり、新たな才能とその感動に出会い交流する場を提供しています。