細田守監督と『ウルフウォーカー』監督が夢の鼎談!共通のテーマ"狼"を語り合う

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細田守監督と『ウルフウォーカー』監督が夢の鼎談!共通のテーマ"狼"を語り合う

製作した長編すべてが米国アカデミー賞にノミネートしているアニメーションスタジオ「カートゥーン・サルーン」の最新作『ウルフウォーカー』(10月30日公開)の公開を記念して、「東京アニメアワードフェスティバル 2021」(3月12日~3月15日) のプレイベントとして、スペシャルトークセッションが開催。アニメーション映画監督の細田守監督と、『ウルフウォーカー』のトム・ムーア監督、ロス・スチュアート監督が、お互いの作品について熱く語り合った。

上から2番目が細田守監督、3番目がロス・スチュアート監督、4番目がトム・ムーア監督
上から2番目が細田守監督、3番目がロス・スチュアート監督、4番目がトム・ムーア監督

『ウルフウォーカー』は、眠ると魂が抜け出しオオカミになる“ウルフウォーカー”という、中世からアイルランドで密かに伝えられてきた伝説をモチーフとして描かれる不思議な物語で、トム・ムーア監督、ロス・スチュアート監督が制作。早くもアカデミー賞アニメーション部門最有力候補と目されている。一方の細田守監督は日本を代表するアニメーション映画監督で、『時をかける少女』(06)、『サマーウォーズ』(09)、『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)を手掛け、2018年に公開した『未来のミライ』では第71回カンヌ国際映画祭・監督週間に選出、第91回米国アカデミー賞の長編アニメ映画賞や第76回ゴールデングローブ賞のアニメーション映画賞にノミネートされ、第46回アニー賞では最優秀インディペンデント・アニメーション映画賞を受賞している。

今回の鼎談企画は、2015年に「カートゥーン・サルーン」の『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』が、「東京アニメアワードフェスティバル」のグランプリを受賞したことがきっかけに。『ウルフウォーカー』のトム・ムーア監督、ロス・スチュアート監督が、同じ“狼と子供”をモチーフにした作品を手掛けた細田守監督へラブコールを送ったことから実現した。

【写真】細田守監督と『ウルフウォーカー』監督が共通のテーマである"狼"について語り合った
【写真】細田守監督と『ウルフウォーカー』監督が共通のテーマである"狼"について語り合った

――まずは、いま最も注目されているスタジオの1つ「カートゥーン・サルーン」の最新作『ウルフウォーカー』をご覧になっていかがでしたか?

細田監督(以下、細田)「ひと足先に観せていただいて、本当にすばらしい作品だと思いました。『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』では誰もしたことのないような体験をしましたが、さらに上を行く体験ができました。美しさと力強さがあるところに感銘を受けまして。1カット目から当たり前のカットがないんです。まるで絵画のよう。こういう風に街を、森を、少女たちを描くんだ、と思いました。言い尽くせないんですけども」

トム・ムーア監督(以下、ムーア)「『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』と違ってアクション満載の映画にしたいと最初から思っていました。アクションアドベンチャーと言えるものになりました」

細田「確かに前の(『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』の)ポエティックなものとは違うけど、児童文学的なものも感じました」

ムーア「そうかもしれません。童話や神話に出てくる古典的な行動を追求していたのかもしれません」

ロス・スチュアート監督(以下、スチュアート)「構想の段階から民話的な、古典的な雰囲気というのは狙っていたところです」

――街を普通のパースとは異なるような、平面的な構図で描いていましたがどうしてそのようにしたのでしょうか?

スチュアート「(この作品では)街は檻というイメージがあったので、鉄格子のようなイメージにしたいと思い、空がほとんど見えないような、迷路から逃れられないようなイメージにしました。森では自由さを描くために、印象主義的な、ルーズな線を描き、街と対照的なイメージで描きました」

細田「すごくコンセプチュアルで素晴らしいです。キャラクターの愛らしさも特徴的ですね」

ムーア「森のキャラクターは曲線を多く、街の人は鋭角的な感じで描きました。キャラクターは木版画を意識した線で作っています。あとは、線にエネルギーを残すというのも大事でした」

『ウルフウォーカー』では中世から密かに伝えられてきた伝説を描く
『ウルフウォーカー』では中世から密かに伝えられてきた伝説を描く

――ムーア監督、スチュアート監督と細田監督は、狼の子供だったり、異形の者が人になるというものだったり、同じようなテーマを持っており、その共通点に興味を持つ人も多いと思いますが…

ムーア「世界中に民話があるけれど、人が変身するというのは普遍性の高いテーマなのだと思います」

スチュアート「古代からある洞窟にも半身、獣という肖像画がありますね」

細田「僕自体は、狼というモチーフをどう考えるかというと…。“狼の悪者”というのは、やはりヨーロッパ的だと思っています。人間が理想郷を作るとき、悪者にされた動物。イデオロギッシュな意味合いで、歴史的に酷い目に合っていたんじゃないかと。クジラもそうですね。対立する相手として描かれてきた。でも狼もクジラも、善も悪もなく、動物ですよ。だから、動物たちには言い分があるんじゃないかと思うんです。狼なんか実は臆病だったり、仲間と共にいて、優しいというような側面もある。凶暴で襲ってくるという部分もあるかもしれないけど、それはどこか、人間が作り出したものがあるんじゃないかという疑問があります」

ムーア「アイルランドにおいては狼はもともと敵ではなかったのですが、キリスト教の一派によって、自然は敵であり、コントロールするべきものだという考え方が広まったんです。でもこの考え方のせいで環境破壊が起きていると思うので、今では時代遅れだと思います」

スチュアート「僕も今後は、自分の中の野性を呼び戻し、再発見する時代になっていくと思います」

細田「僕もお二人の意見に同意したい気持ちです」

ムーア「『おおかみこどもの雨と雪』では、雨と雪が自分の“狼性”を恥だと思っている場面があるが、実際は全ての人に野性というものが宿っているので、二人ももっと狼性を発出しても良かったのではないかと思いました。ところで、やはりアニミズムの世界観など、日本とアイルランドは似ているところがあると思います。残念なことに、昨今は、そんな神話や民話などの伝説が失われていっているような気がします」

細田「日本には狼信仰のある神社もあるし、アニミズムという点でも、西洋文明主義と違うところがあり、そのセンスというのは日本とアイルランドは共通しているのだと思います。ムーア監督が言うように、失われつつあるものを、僕はアニメ―ションという形を通して現代に伝えていきたいですね」

――2013年からのプロジェクトということですが長いですね。ご苦労されたのでは?

ムーア「『預言者』などを平行して作っていたので本格的に制作に着手したのは3年前なんです」

細田「僕らも3年に1本なので、作り方は近いのかもしれないですね」

ムーア「ちょうどいいペースというのはあると思います。『ブレンダンとケルズの秘密』以降は順調に、1本1本経験を積んで、よりよくなっていっていると思います」

『ウルフウォーカー』では、3Dソフトウェアを使用しダイナミックなカメラワークを表現している
『ウルフウォーカー』では、3Dソフトウェアを使用しダイナミックなカメラワークを表現している

――今後、CGでキャラを動かすことは考えているんですか?

ムーア「個人的には手描きにこだわっていきたいと思っています。ですが、コンピューターのおかげで表現の幅は広がっていると思います」

スチュアート「コンピューターの使い方は細田さんと似ていると思います。手でできないことをコンピューターに任せていくという分業の仕方をしています」

細田「僕もなんで手描きなのかとさんざん聞かれますが、お二人の言ったような感じで切り返していきたいと思います(笑)」

――日本のアニメを意識したり、細田監督の影響はあったりするんでしょうか?

細田「僕の影響はまったくないと思いますよ(笑)」

ムーア「世界中で唯一すばらしい手描きアニメを作っているのは日本とフランスだと思いますので、どういう効果を使ったらいいのかというのは、日本のアニメを大変参考にさせていただいています」

――細田監督にこの機会に聞かれたいことはありますか?

ムーア「野性と人間の関係についての考えを聞きたいです」

細田「僕は、どうやったら子どもは大人に成長するのだろう、といつも映画を通して考えたいと思っているんです。僕は子どもの成長を描きたいのです。野性というものは、その中のキーワードとして潜んでいるのかもしれません」

スチュアート「細田監督は2本先くらいまで企画しながら制作しているのでしょうか?」

細田「平行にはせず、やはり1本1本作っています。映画を観ていただいてから、やっと次を作る権利を得るという感じです。次回作は考えているんですか?」

ムーア「僕とロスはここで一旦、休憩を取ろうと思っているのですが(笑)、次の監督たちが順番に作品を作り、経験を積んでいます」

細田「そうかあ。でも、最新作の『ウルフウォーカー』を観たら、みんな、すぐ次のを作ってくれって言いますよね(笑)」

今回の夢の鼎談では、テーマの共通点などについても言及したメンバー。最後は、「今後もアイルランドと日本のアニメーターたちがコミュニケーションできる機会があれば」と気持ちを寄せ合っていた。なお、この鼎談の様子は、編集後にYouTubeプレミアとして10月25日(日)に無料配信される予定だ。詳細は映画『ウルフウォーカー』の公式サイトで確認してほしい。

取材・文/平井あゆみ

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