黒木瞳監督、果敢に挑んだロックな映画『十二単衣を着た悪魔』の舞台裏を語る

インタビュー

黒木瞳監督、果敢に挑んだロックな映画『十二単衣を着た悪魔』の舞台裏を語る

「監督として、お二人の器の力と感性の力をいただきました」

雷と愛し合う倫子(伊藤沙莉)
雷と愛し合う倫子(伊藤沙莉)[c]2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

そしてもう1人、雷の成長を後押しする役柄となったのが、雷の妻となる倫子役の伊藤沙莉だ。黒木は、2人のあるシーンについて「目の芝居が秀逸でした」とうなったそうだ。
「台詞がないシーンでしたが、ここはもう寄って撮るしかないと思いました。本当にびっくりしましたね。監督として、お二人の器の力と感性の力をいただきましたが、それが画面に出たなと思いました」と手応えを口にする。

雷が、あるショッキングな出来事で悲しみに打ちひしがれる表情を見た時も、黒木監督は「顔つきが全然違いました」と、伊藤の演技に心を打たれたそうだ。「それは、芝居でやってできる顔ではなかったです。その後、立ち直った雷の表情もまた違いました。顔つきってそんなにメイクで変わるものではないので、気持ちが1つ1つに入っていたんだなと思います」。

2作目の長編監督作を撮りあげた黒木瞳監督
2作目の長編監督作を撮りあげた黒木瞳監督撮影/河内 彩

また、黒木は伊藤が見せたリアクションの演技にも驚いたそうだ。
「弘徽殿女御が『男は能力を形にして示せ』と言ったあとに雷が『はい』と言うシーンで、健太郎くんが間を開けるんです。目を泳がせたあと『はい』と、蚊の鳴くような声で言うんです。そのあたりは演出ではなく、健太郎くん自身の感性で、恐れ入りますと思いました。健太郎くんの芝居は、編集で捨てられないカットがたくさんあって。つまり余韻、『……』で、どういう芝居ができるかというのが役者には大事です。健太郎くんは、本物の役者だなと思いました」。

黒木監督は本作の現場で「この物語はロックなのよ!」と言い続けていたそうだ。それは、女性がまだ自分の意思表明をすることが難しかった平安時代に、「源氏物語」を執筆した紫式部や、我道を突き進んだ男前な弘徽殿の女御のことを差すし、劇中でも映画音楽にロックが使われている。主題歌もOKAMOTO’S の「History」。そこに加え、このSFファンタジーとも言える原作の映画化作品にひるむことなく挑んだ黒木監督自身も、ロックな存在だと言いたい。監督、黒木瞳が手掛けた渾身の一作をぜひスクリーンで観てほしい。
 
取材・文/山崎伸子

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