御年90歳でも健在ぶりを見せつける、“クリント・イーストウッドの軌跡”を35mmフィルムで堪能!
監督に徹し、役者の良さを引き出した『ミスティック・リバー』(03)
監督と出演を兼ねることが多く、これまでに監督作で24本に役者として顔を出してきたイーストウッド。彼が監督に徹し、役者の演技を引き出した作品が、四半世紀ぶりに再会を果たした3人の幼なじみ男性の運命を、少年時代まで遡りながら描いた『ミスティック・リバー』だ。
ボストン郊外の小さな町で殺人事件が発生し、犯罪稼業から足を洗い雑貨店を営むジミー(ショーン・ペン)の娘が殺された。その捜査にあたったのは、幼なじみのショーン(ケヴィン・ベーコン)、そして容疑者として捜査線上に浮かび上がったのは、またもや幼なじみのデイブ(ティム・ロビンス)だった…。
実力派たちの極上の共演のなかでも白眉は、荒くれ者の性質がいつ爆発するのかという危うさを漂わせたスリリングなショーン・ペンと、幼少期に受けた性的暴行の傷に悩まされるティム・ロビンスの繊細さ。人物のバックグラウンドを感じさせる見事な演技と、そんな彼ら2人を長回しでじっくり見せていくイーストウッドの演出の妙が噛み合い、2人はそれぞれアカデミー賞の主演と助演男優賞を受賞した。
イーストウッドの哲学が詰まった『グラン・トリノ』(08)
これまで約半世紀、監督として西部劇、ラブストーリー、伝記もの、戦争ドラマなど多岐にわたる映画を作り続けてきたイーストウッドの近年の名作として外せないのが『グラン・トリノ』だ。イーストウッドを除き、誰もが知るスターが出ておらず、わかりやすいモチーフがあるわけでもないが、公開当時、それまでに自身が監督した作品の中で最高興行収入を樹立した。
朝鮮戦争帰還兵であるウォルト(イーストウッド)は、妻に先立たれ、子どもたちとも疎遠になっている孤独な老人。偏屈な頑固者であり、72年製のビンテージ・カー“グラン・トリノ”をなによりも大切にし、昔を懐かしみながら生きていた。そんな時、愛車をきかっけに、アジア系の少年タオ(ビー・バン)と出会い、人生を大きく変えていくことに。
周りを気にせず自らの美学に固執し、生き様を貫く姿勢や孤高の男ぶりは、往年のイーストウッドが演じてきたキャラクターたちを彷彿とさせ、同時にそんなヒーロー像を築き上げてきたイーストウッド自身ともどこか重なって見える。そんな頑固な男が、人種や年齢、家族という様々な枠組みを超越した絆を少年と築き、見違えるように成長していく姿や、クライマックスで下す決断には、イーストウッドの人生の哲学が込められていると言っても過言でないだろう。
このほか、『目撃』(96)、『真夜中のサバナ』(97)、『トゥルー・クライム』(99)、『スペース カウボーイ』(00)、『ブラッド・ワーク』(02)、『父親たちの星条旗』(05)、『硫黄島からの手紙』(06)、『インビクタス/負けざる者たち』(10)が上映される本特集。膨大な作品数があるイーストウッドだけに、どれから手を出していいかわからないという人は、ハズレなしの名作が集結したこの特集上映に足を運んでみてはいかがだろうか?
文/トライワークス
期間:10月29日(木)〜12月6日(日)※毎週月曜休館日、12月1日(火)は休映
会場:東京国立映画アーカイブ
URL:https://www.nfaj.go.jp
上映作品:
『ダーティハリー 』
『許されざる者』
『マディソン郡の橋』
『目撃』
『真夜中のサバナ』
『トゥルー・クライム』
『スペース カウボーイ』
『ブラッド・ワーク』
『ミスティック・リバー』
『父親たちの星条旗』
『硫黄島からの手紙』
『グラン・トリノ』
『インビクタス/負けざる者たち』