短歌原作『滑走路』大庭功睦監督と歌人・モデルの知花くららが対談!映画と短歌の意外な共通点とは?

コラム

短歌原作『滑走路』大庭功睦監督と歌人・モデルの知花くららが対談!映画と短歌の意外な共通点とは?

32歳の若さでこの世を去った歌人、萩原慎一郎の遺作となった唯一の歌集「滑走路」。中学、高校時代に遭ったいじめを起因とする精神不調を抱え、アルバイトや契約社員など非正規雇用を経験しながら、逆境のなかでも明日への希望を詠み続けた彼の歌は、世代を超える多くの人の共感を呼び起こした。映画『滑走路』(11月20日公開)は、原作歌集をモチーフに、オリジナルストーリーとして現代社会の生き辛さのなかでもがいている人々の姿を描く、鮮烈な群像劇だ。

社会問題を浮き彫りにする鮮烈な群像劇『滑走路』
社会問題を浮き彫りにする鮮烈な群像劇『滑走路』[c]2020「滑走路」製作委員会

このたび、本作で商業映画デビューを果たした大庭功睦監督と、昨年、処女歌集「はじまりは、恋」を刊行し、歌人やモデル、女優、さらに国連WFP(国連世界食糧計画)日本大使としても活躍する知花くららの対談が実現。大庭監督は映画製作者として、知花は歌人として様々な想いを持つなかで、原作歌集と本作の感想や、短歌と映画の意外な共通点など、興味深いトピックが次々と飛びだす貴重な場となった。

「原作歌集を読んだときは、一首一首が刺さりました」(知花)

歌集も出版するなど、長年短歌に親しんできた知花くらら
歌集も出版するなど、長年短歌に親しんできた知花くらら撮影/興梠真穂

――知花さんが映画『滑走路』をご覧になった感想をお聞かせください。

知花くらら(以下、知花)「まさに“魂の叫び”と言いたくなる、終始、登場人物たちの痛みがにじんでいるような印象を受けました。もともと原作の歌集を読んでいたので、それに重ねて観ていたところがあって。人が希望を持ち続けるためには、どうしたらいいんだろう…と自分自身への問いになって返ってきた感じです」

大庭功睦(以下、大庭)「映画化するにあたっては、まず僕が一読者として、この歌集にどう感応したかというところが立脚点になりました。やはり一番のベースは、萩原慎一郎さんの歌集なんです」

知花「最初は萩原さんについてのストーリーなのかな?と思って観始めたんですけど、そうじゃなくて、いろんな状況にいる人たちのエピソードがあって。萩原さんの視点とか、彼が見た景色とか、すごく断片的なものが登場人物の皆さんのなかにいくつも落ちている。萩原さんの個人的な葛藤から生まれた歌集を通して、たぶん人って見えないところでこういうふうに苦しんだり、葛藤したりしているよねっていう、いろんな視点を見せてくれる。そういう作品だなと思いました」

本作が商業映画デビュー作となった大庭監督
本作が商業映画デビュー作となった大庭監督撮影/興梠真穂

大庭「ありがとうございます。原作歌集の短歌で詠まれている情景を、そのまま描いているショットもいくつかあるんです。ただ、直接置き換えるものだけではなく、記憶のなかで反芻したときに、短歌的な詩情とともに思い返されるような映画にしたいなとは思っていて。特にそういう意図を持って撮ったシーンもあるので、それが映画にしかできない表現になっていたらいいなと思います」

――歌集としての原作「滑走路」の印象は?

知花「社会的な背景を背負った歌もあり、恋のことを詠んだ相聞歌もあり、萩原さんの世代の視点が丸ごと詰まったような歌集だと思います。そこに彼自身が葛藤し、苦悩していたことがにじんでいる。一首一首が刺さりましたね。私も昨年歌集を出させていただいたんですけど、処女作を編むって、本当に大変な作業で。どういうふうに1冊の歌集として読んでいただきたいかを考えて編むんですね。いままで作ってきた歌を拾ったり、捨てたり、削ったり、付け加えたりしていく。きっと萩原さんもそういう作業をしながら、ひとつ生み終えたはずなのに、一番大切なものを絶ってしまった、というのが私のなかでは腑に落ちなくて…。すごく悲しいなっていうのが正直な気持ちです」

萩原慎一郎の唯一の歌集「滑走路」
萩原慎一郎の唯一の歌集「滑走路」[c]2020「滑走路」製作委員会

――原作歌集の中で、特に心に残っている短歌を教えてください。

知花「萩原さんの視点がどこにあるのか、というのを感じて、すごくハッとさせられた一首は“シュレッダーのごみ捨てにゆく シュレッダーのごみは誰かが捨てねばならず”です」

大庭「最初、まさにその歌のシーンを入れようかという案は出ていたんですよ。シュレッダーをするときって、ずーっと下を向かざるをえないじゃないですか。その様子がすごく想起されるので、僕もけっこう印象に残っていて。ただ、あまり画になりにくいという理由で見送ったんですけど」

知花「監督が好きな短歌はどれですか?」

大庭「僕は“遠くからみてもあなたとわかるのはあなたがあなたしかいないから”という歌が一番好きですね。一見、恋の歌みたいだけど、恋だけじゃない。それがいいなと思っているんです。母親が自分の子どもを見る視点も、子どもが母親を見る視点もそうだし。それで、学級委員長の少年の母親が、彼が幼かったころに撮ったビデオを見ているシーンで、母親役の坂井真紀さんにセリフとして言ってもらいました。自分にとってのかけがえのない人を、ちょっと離れたところから熱心に見るような視線の在り方は、撮影するうえでも常に意識していましたね。全体的なトーンとして、対象を自分の手で汚してしまわないような、傷つけてしまわないような距離感で撮りたいなと思っていました」

優しい目線で息子を見守り続ける母親を演じた坂井真紀
優しい目線で息子を見守り続ける母親を演じた坂井真紀[c]2020「滑走路」製作委員会
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