西川貴教、『天外者』は”運命的”な作品「映画のなかで生き続ける春馬を、多くの方に観てほしい」
ミュージシャンでありながら、俳優や声優、タレント、そして近年は実業家としての顔も持つ西川貴教。三浦春馬主演の歴史青春群像劇『天外者』(公開中)では、のちに三菱財閥を築く土佐藩士、岩崎弥太郎役を演じている。メインキャストとして熱演を見せた西川に単独インタビューを敢行し、亡き三浦春馬との撮影エピソードや、コロナ禍のいま、本作が公開されることの意義について話を聞いた。
主人公の五代才助(のちの五代友厚)は、薩摩藩士から明治政府役人を経て実業家となり、商都大阪の礎を築いていく。真っ直ぐで志が高かった才助は「名もいらぬ、実もいらぬ、ただ未来のために」と自分の信じる道を邁進した。彼の盟友となるのが、坂本龍馬(三浦翔平)、のちに初代内閣総理大臣の伊藤博文となる利助(森永悠希)と、西川演じる弥太郎だ。
弥太郎については、西川が「近代の日本を振り返るうえで欠くことのできない存在で、これまでに名優の方々が演じられてきた」と語るとおりで、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10)では香川照之が演じていたのが記憶に新しいところだ。
「弥太郎についての文献や映像資料がたくさんあるし、僕自身も、これまでの作品で描かれた弥太郎像に引っ張られてしまいそうになりましたが、そこで『ちょっと待て、なにか大事なことを忘れているんじゃないか』と思い始めました。僕は会社をやっていて、いろいろな経営者の方々にお会いする機会も多いんですが、その時に彼らのカリスマ性だけではなく、人間的な魅力や可愛さも感じたので、今回はそこを入れて、僕ならではの弥太郎を演じようと、向き合い直したんです」。
メガホンをとったのは、『利休にたずねよ』(13)や『海難1890』(15)の田中光敏監督だが、「自由度が高くも、そのぶん、責任感の重い現場だった気がします」と言う。才助、龍馬、弥太郎、利助が牛鍋をつつきながら、夢や野望を屈託ない表情で語り合うシーンが印象的だ。
「あのシーンは、ほとんど素でした。撮影に入る前から、撮影所の片隅で“みんなと牛鍋を食べる”というだけの段取りを監督に見せるところから始まったのですが、本作の軸にもなったシーンです。春馬と翔平は普段から仲が良かったし、僕も撮影期間中は何度も一緒にごはんを食べましたが、その関係も監督のねらいだったのではないかと」。
才助たちに感化され、最初はただ強欲な商人だった弥太郎も、やがては日本経済を俯瞰で見るようになっていく。
「才助は最初から日本全体の未来を見据えていて、その志をぶれずにそのまま貫いていく人。そういう意味では、一番ぶれていき、結果的に一番成長していくのが弥太郎なんです。田中監督からも、『この物語は弥太郎の成長劇でもある』と言われましたが、確かにそうだなと思いました」。