西川貴教、『天外者』は”運命的”な作品「映画のなかで生き続ける春馬を、多くの方に観てほしい」
「映画のなかで生き続ける春馬を、多くの方に観てほしい」
西川は、才助の生き様に心が揺さぶられたと言う。「現代では、承認欲求だけがやたら高くて、近視眼的なものの見方しかできない人が多い気がします。でもいまこそ、身近な人や、ひいては社会に対して、自分になにができるのかと、本当に考えなきゃいけない時期なのかなと。この『天外者』という映画は何年も前から企画が立ち上がっていましたが、このタイミングでようやく花開くということに、大きな意味があったのではないかと。僕自身も弥太郎役をやらせていただくことに、責任感だけではなく、なにか運命的なものも感じました」。
西川自身も、「滋賀ふるさと観光大使」を務め、地元の滋賀で毎年開催する「イナズマロック フェス」を立ち上げたりと社会貢献に関わってきたが、その点は、弥太郎と通ずるものがある。
西川は「いや、それはおこがましいです」と恐縮しながら「やっぱり、最初から世のため人のためになることを目指すというのではなく、まず身近な人たちを幸せにしようと考えて動いた時、その先にもう少し大きな広がりが見えてきたというか、地域や社会のためになることを考え始めたという流れなんです。もちろん、それは自分の生活や安全性など、いろんなものが担保されてないと、そういう発想に行きにくいとは思いますが、これからもっとみんながそういうことを考えていかないといけないのかなと」と自身の考えを口にした。
才助と弥太郎の共演シーンで最大の見せ場となるのが、クライマックスで大阪の商人たちを前に2人が対峙し、熱い想いを交わし合うというくだりだ。西川は「僕も、このシーンに向かって、役を積んでいきました」と気合十分に臨んだ。
「何稿か脚本が変わっていくなかで、最終的にあの形になりました。今回の映画で、エキストラの方々を含め、一番出演者が多いシーンでしたし、僕のなかでは、春馬と一騎打ちするというシーンで緊張していたんです。脚本を読んだ時、カットを割って、いろいろな角度から撮っていくんだと想像していましたが、実際はライブに近い撮影で、2回くらいしかやらせてもらえなかったんです。それで監督から『OK!』と言われたので、『ええ~っ!』って思いました」と苦笑する。
「僕としては、もう1回やらせてくれないかなと思ったけど、あれ以上やってたら、きっとねらいすぎになってしまったんでしょうね。また、そのシーンを試写で観た時、僕はめちゃくちゃ背中の芝居をしてて、あれれ?となって。でも、あとから非常に監督の意図を感じました。そのシーンには、いろんな人たちの思惑が全部詰まっていて、才助と弥太郎の勝負ですが、実は亡き龍馬のぶんも背負って、3人の芝居をしていたんだなと思いました」。
また西川は本作に出演してみて、三浦春馬と五代友厚が非常に重なったと言う。
「五代友厚という役ですが、ものすごく春馬だったなと感じました。真面目で不器用なところもあるけど、なにか光るものを持っていて、気のおけないところもひっくるめて、三浦春馬そのものだったなと。翔平もみんなもきっと同じ想いだと思いますが、いまだに春馬がもうこの世にいないなんて思えないんです。完成披露試写会だって、たまたまスケジュールが合わなくて来られなかったとか、彼は忙しくて連絡が取れていないだけで、そのうちご飯でも食いにいけるかな、という感じです」。
奇しくも観終わったあと、ラストシーンが深い余韻を残すことになるが、西川は非常に感慨深い表情でしばし言葉を飲み込んだあとこう語った。
「きっとご覧になった皆さんは、そこを意識せざるをえないかもしれないけど、ねらってないってところが悔しいというか…。本作はクランクインするまでにずいぶん時間がかかった作品で、僕もオファーをいただいてからすごく時間があったんです。でも、ようやく撮影ができて完成し、いまに至りますが、いろいろなことを考えてしまいます。ただ、僕としては、この作品のなかに生き続けている春馬を、多くの方に観てほしいと、ただそれだけです」。
取材・文/山崎伸子