『ソウルフル・ワールド』は従来の価値観への挑戦状!?ピート・ドクター監督が語る人生のきらめき
『カールじいさんの空飛ぶ家』(09)や、『インサイド・ヘッド』(15)でアカデミー賞を受賞し、ピクサーのトップ(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)に登りつめたピート・ドクター監督。彼が監督を務めたディズニー&ピクサー最新作『ソウルフル・ワールド』が、ディズニープラスで独占配信中だが、本作に込められたメッセージが実に味わい深い。そこで、ドクター監督と共同監督のケンプ・パワーズ、製作のダナ・マレーに、オンラインインタビューで直撃した。
『ソウルフル・ワールド』の舞台は、生まれる前の魂(ソウル)たちがいる世界。主人公は、ジャズのミュージシャンになるという夢が叶う目前で、ソウルの世界に行くことになった音楽教師のジョーで、彼がソウルの世界へ行き、人間に生まれたくないというこじらせ系のソウル「22番」と出会う。
ドクター監督は本作について「23年の歳月をかけて製作した」と語ってきたが「23年間というのはジョークで言ったんだけど、そのまま受け入れられてしまったみたい」とおちゃめに笑う。
「23年前というのは、僕の息子が生まれた年だ。人間の個性は育っていくなかでできるものだと思っていたけど、息子にはすでに生まれた時からしっかりと個性があった。それなら、個性というものはどこでどう作られるのか?と考え始めたことが、今回の映画を作るきっかけになったよ」。
プロデューサーのマレーによると「この作品を制作するのにかかった年数は約5年間です」とのこと。「最初にピートから本作のアイデアを聞いた時、『なんて難しそうでクレイジーな設定だ!』と誰もが思いました。そして、そのアイデアを映画化できるのは、ピートしかいないとみんなが感じ、映画化を進めることになったんです」。
「現実の世界はリアルに描き込み、ソウルの世界はシンプルかつピュアに描くことをルールづけた」(ドクター)
なにごとにも「どうせ私なんて…」とネガティブに捉えがちな22番のソウルと、ジャズのミュージシャンを夢見る音楽教師のジョー。主要キャラクターである2人については「特にモデルがいたわけではなく、いろんなアイデアから作られたキャラクターだ」とパワーズ監督は言う。
「22番に関しては、世の中のことをすべて知っているような気持ちになっていることが多いティーンエイジャーのようなキャラクターだ。実際に22番の場合、いろんなことを頭ではわかっているけど、実際に経験して知識を身に着けたわけではないところが、いかにもティーンエイジャーっぽいよね」。
オリジナル版では、「サタデー・ナイト・ライブ」などで活躍してきたコメディ女優のティナ・フェイが演じているが、パワーズ監督によると「彼女特有のコミカルさが、22番のキャラクターとぴったりマッチした」と言う。
「ジョーは僕が参加したことがきっかけで、僕の個人的な体験を反映したキャラクターになっていったが、結果的にその道のりはすごく自然なものになったと思う。『本当に僕はいま、これをやるべきなのか?』という問いかけは、アーティストたちが辿る道に近いと思うし、そもそも物語の基盤となっているのが、ピートの実体験だから、たぶん誰もが共感できる物語になったんじゃないかな」。
生まれる前のソウルの造形について、パワーズ監督は「まず、世界中の伝統や残されている証言をリサーチするところから始めたけど、ほとんどの場合、“魂”は物理的なものではなくて、空気みたいなものとされていることが多かった」ということで、最終的にいきついたのが、非常にシンプルな形のソウルだ。
「また、人間たちの住むニューヨークのような、現実の世界はリアルに描き込む一方で、天上の世界に行けば行くほど、シンプルかつピュアに描くことをルールづけた。だからソウルたちはかわいくてソフトな形をしている。また、彼らのカウンセラーたちを線で構成されたキャラクターとして描いたのは、シンプルにエネルギーを象徴するような感じにして、人間やソウルとも違うルックスにしたかったから。アレクサンダー・カルダーなど現代彫刻家の作品も参考にしたんだが、結果的には、すごく魅力的でおもしろいものになったんじゃないかな」。
ドクター監督も「人間はかかしを作る時、カラスが人間だと勘違いするようにと、人の造形にしていると思うけど、それと似た発想だ。カウンセラーも、映画を観ている人たちからすれば、『あ!人間だ』と認識できるように、ああいう姿にしたんだ」と補足する。