『ソウルフル・ワールド』は従来の価値観への挑戦状!?ピート・ドクター監督が語る人生のきらめき
「この先、いまの風景は変わっても、映画の灯が消えるということはないと思う」(パワーズ)
人生のきらめきや輝きについて描く本作は、コロナ禍の不安な状況において観る人たちの琴線を揺さぶりそうだ。3人は、本作が伝えるメッセージをどう捉えているのか。
ドクター監督は「ある意味、『ソウルフル・ワールド』という作品は、私たちが『なにか大好きなものを見つけ、それを仕事にすれば、幸せがやってくる』といった、人生哲学やアドバイスをもっと掘り下げた作品になったんじゃないかな。僕自身も、自分がやりたい仕事に就ければ、ある程度の幸せにつながることはわかっているけど、人生はそれがすべてではないとも思う。ある意味、本作はそういう既存の考え方をする人たちに向けて挑戦状を突き付けるようなところもあるんじゃないかな」と、本作の着地点について語る。
「僕は、ディズニーやワーナー、宮崎駿監督のアニメーションからインスピレーションを受け、その歴史については何日も語れるほどそれらの作品が大好きだ。そしていま、自分が携わっている映画作りの仕事にも、非常に魅力を感じている。でも、僕は妻や子どもがいる家庭があることも忘れてはいけないし、普段はゴミを出して、庭の芝も刈らないといけない。また、そういう日常が人生の喜びの一部だったりもするんだ」。
マレーも「私もゴミ出しは好きですよ。ゴミを出すと達成感がありますから」と笑うと、ドクター監督も「え!そうなの?僕もゴミ出しは好きかな」とうれしそうにうなずく。
マレーは続けて「そうですね。私も本作のテーマは、大人が子どもたちにいつも言っている言葉とは真逆な気がします」と共感する。
「大人はよく子どもに『大人になったらなにをやりたいの?』とか『自分の好きなものはなんなの?』と何度もしつこく聞いてしまいがちけど、私自身は子どもにそういうことを聞くのはあまり好きじゃないんです。もちろん、子どもたちには、自分の大好きなことを見つけてほしいと思っているけど、そのことに固執しすぎると、22番のような迷子のソウルになってしまうから」。
パワーズ監督も「僕たちは自分の夢だった仕事を実際にできている人間で、もちろん大満足しているけれど、幸せって、実はいろんなところからやってくるものだからね。それに、好きな仕事をしていても、調子が出ない日もあるし」と苦笑する。
「アメリカ人は個人主義なところがあるから、他人なんて必要ないと考える人がいるかもしれないけれど、現実の世界を見ると、僕たち人間はみんなが繋がっていて、お互いに頼っているんじゃないかと思うんだ。僕はそういうふうに広く捉えられる考え方がすてきだと思うし、本作もその考え方にフォーカスしています」。
さらにドクター監督は、本作のメッセージについて「僕たちがいま、この世に生を受け、存在しているだけで特別なんだ、ということを伝えられたらいいなと思った。それだけで十分で、なにかを達成しなきゃいけないという使命感を持てなくても、人生を楽しんでいいんだと思ってくれたらうれしいよ」と述べた。
また、本作が劇場公開ではなく、ディズニープラスでの配信になったことについて、ドクター監督は「作る側の立場から考えると、一旦制作を休止せず、作品を家で作り続けることができたことは、とても運が良かった」と捉えた。
「このご時世で、本作を誰にも観せられなくなるんじゃないかと不安だったけど、配信になったことで、心地良く鑑賞できると感じてくれる人も多いと思う。いまの時点では配信が一番安全な方法だし、そういう場があることにも感謝している」。
パワーズ監督は「確かにこの先、いまの風景は変わっていくかもしれない」としたうえで「でも、映画の灯が消えるということはないと思う。この先どんな形になるか分からないけど、僕は映画館に人が戻ってくることを願っている」と言って、3人でうなずきあった。
取材・文/山崎伸子