闇家業、政治家暗殺、麻薬王、国境問題…メキシコの暗部に迫るドキュメンタリー4選
メキシコを支える“闇救急車”とは?
ここまでは家で楽しめる3本を紹介してきたが、それらが気になった人は、ぜひ現在劇場公開中の『ミッドナイト・ファミリー』もチェックしてみてほしい。2019年のサンダンス映画祭で米国ドキュメンタリー特別審査員賞を受賞するなど、各国の映画祭で絶賛されたこの作品は、メキシコの首都メキシコシティで活動する民間救急車の活動を3年間にわたり追ったものだ。
夜な夜な救急車を走らせているオチョア一家。彼らは専門訓練もほとんど受けておらず、認可も得ていない営利目的の闇ビジネスとして救急隊活動を行っている。同業者とカーチェイスさながらに激しく競い合いながら、患者を搬送し、日銭を稼ごうにも現実はなかなか厳しく…。映画は、メキシコの医療事情や民間救急隊の苦労を、人間味に満ちた視点を交えながらスリリングに伝えていく。
倫理的に疑問視されるオチョア一家の闇ビジネスだが、メキシコシティでは、彼らのような民間の救急活動が市民の命綱となっている。というのも、人口900万人ほどに対し、公営の救急車の台数が45台にも満たないのだ。この数字は令和元年の東京の救急車の総数267台と比べても、圧倒的に少ないことがわかる。そんな状況をカバーしているのが、70〜80台近くの民間救急車なのだ。
命を救うべく奔走しても、患者から直接代金を受け取るというシステムに依存をしているため、金がないと言われてしまえばどうすることもできず、支払いの拒否を受けることも珍しくない民間救急隊。さらには賄賂を要求してくる警察も多いため生活はいつもギリギリ、加えて「海賊」や「寄生虫」と言い表されることも。そんな状況下でも、誰かが必要悪を担わざるを得ない状況がメキシコにはあるのだ。
1985年のメキシコ地震時に、北米や中南米から救急車が流入してきたことを発端としているそうで、このカオスなシステムが長きにわたって常態化していることからも、メキシコの医療制度の混乱が見て取れるはずだ。
様々な事象の側面にカメラを向けるドキュメンタリー作品をぜひチェックして、どのような問題が蔓延っているのかを確認してみてほしい。
文/サンクレイオ翼