社会復帰を目指す男の奮闘記『すばらしき世界』…登場人物たちが息づく物語の舞台“葛飾区”を訪ねる
映画やテレビドラマに撮影可能なロケ地の情報を提供し、案内、調整も行う組織「東京ロケーションボックス」は、映像作品を通して東京の魅力を国内外に発信しながら、ロケ撮影で地域活性化を図ることを目的としている。その活動内容の紹介として、実際にサポートを受けた作品にフォーカスするこの企画。今回は『ゆれる』(06)、『ディア・ドクター』(09)、『永い言い訳』(16)などの西川美和が監督し、役所広司が人生の再出発に奮闘する男を演じた『すばらしき世界』(公開中)より、撮影場所の一つとなった東京都葛飾区のスポットを巡ってみたい。
直木賞作家の佐木隆三が実在の人物をモデルに執筆した小説「身分帳」を原案とし、西川監督が長編作品で初めて“原案小説あり”の作品に挑んだ本作。主人公である人生の大半を刑務所で過ごしてきた殺人犯の三上に役所が扮するほか、彼が社会復帰する姿をテレビ番組にしようと密着取材を行うディレクターの津乃田役で仲野太賀、テレビ局プロデューサーの吉澤役で長澤まさみが出演し、橋爪功や安田成美、六角精児、北村有起哉ら実力派キャストが名を連ねている。
三上と津乃田の出会いの場となった“東部地域病院”
北海道の旭川刑務所での刑期を終え、揺れるバスの中で「今度ばっかりは“堅気”ぞ」と更生を心に誓う三上。身元引受人の弁護士、庄司(橋爪)とその妻、敦子(梶芽衣子)の世話になりながら部屋探しをし、当面の生活費のため、生活保護を申請することに。しかし、長年の無理がたたり、三上の身体はボロボロで申請中の区役所で倒れてしまう。
三上が運び込まれる病院として使われたのは東部地域病院。コロナウイルス感染症が流行する以前に、診察がない日を丸1日使って撮影が行われた。担当医役の聴診器の持ち方や掛け方、診察室のベッドで横たわる三上に取り付けられた心電図の位置などは、本物の看護師から細かなレクチャーを受けたという。また、三上がCT検査を受けるシーンは、当初はMRIの予定だったものが、磁場による機材への影響を考慮して変更されたという裏話も。
三上と津乃田が初めて対面するのも、この病院の一室だ。身分帳という受刑者の経歴が事細かに書かれたノートを手にやってきた津乃田は、三上が幼少のころに母親と離別したこと、少年院に入所し、10代で暴力団に加わり、前科十犯を重ねてきたことなど、話を聞いていく。殺人犯である三上に最初は戦々恐々としていた津乃田だったが、彼の人懐っこい笑顔や、真っ直ぐでやさしい人柄に触れ、しだいに親しみを感じ始めていく。
病室で撮影した際は、その時間だけ患者に別室へ移動してもらうなど、病院側の協力は不可欠だったという。三上と津乃田が会話するロビーでの撮影は、面会時間が終わったあとに実施。照明は点けず、2階の廊下からライティングをすることで、雰囲気のある場面に仕上げている。
撮影のために蛍光灯400本を総入れ替えした“葛飾区役所の福祉事務所相談カウンター”
三上が生活保護を申請するシーンは、葛飾区役所の福祉事務所相談カウンターを使用している。カウンターを挟んで、三上と庄司、ケースワーカーの井口(北村)が対面するこのシーンで、劇中に映っている北村以外の職員は全員がエキストラとして参加した区役所の職員なのだそう。
また、区役所での撮影で、最も苦労したのが“蛍光灯”だったという。撮影は閉庁日を利用して行われたが、広くて開放的な所内には約400本の蛍光灯があり、そのままカメラを回してしまうと緑色が強く出てしまって、映画全体のトーンから浮いてしまう。そこで照明スタッフの提案で、蛍光灯をすべて撮影用のものに取り換えることになり、照明部と制作部がロケ前夜から現場に入って、撮影に間に合わせたそうだ。
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