「ハリポタ」から10年…ネオナチから死体役まで、イメージを覆すD・ラドクリフの怪優道
ハリー・ポッターといえば、この人の姿とともに永遠に記憶される。そんな当たり役を子供時代から10年以上も演じ続けたら、その後の俳優人生はイメージの脱却に苦しむことになりそう…。しかし、ハリー・ポッター役を終えてから約10年。ダニエル・ラドクリフは、その「イメージの脱却」を逆手にとって、映画ファンに愛され続けている。
シリーズ最終作『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』の公開が2011年。その直後の2013年に、詩人アレン・ギンズバーグ役で男性とのキスシーンも演じた『キル・ユア・ダーリン』と、頭に突然、角が生え、目の前の人間の欲望をあらわにさせるという超奇抜な主人公の『ホーンズ 容疑者と告白の角』と、立て続けに難役にチャレンジ。ハリー・ポッター役のイメージを一気に払拭させたいという、本人の意識がありありと感じられた。とはいえ、ハリー・ポッター時代にも、「エクウス」では舞台で全裸姿を披露するなど、ダニエルの俳優としての野心は振り切れていた。
その後も、せむし男のイゴール役の『ヴィクター・フランケンシュタイン』(15)、スキンヘッドでネオナチの組織に潜入する捜査官の『アンダーカバー』(16)、さらに全編、「死体」の状態で登場し、なぜか不思議な能力を発揮する『スイス・アーミー・マン』(16)と、ダニエルの作品チョイスは独特な強烈さを極めるばかり。ハリー・ポッター役のイメージ脱却というより、本人も「脚本を読んで、映像化可能なのか疑うような作品が好き」と語っていたように、等身大の青年役があまり好きではないようだ。
現在公開中の新作『ガンズ・アキンボ』は、そんなダニエルの過激な志向を達成しつつ、キャラクター自体は意外なまでに共感度が高いという、さらに一歩進んだ彼のキャリアを実感させてくれる。
近未来を舞台に、ダニエル演じる主人公のマイルズが、あろうことか両手にボルトで銃を取り付けられ、闇サイトの公開格闘ゲーム「スキズム」に参加させられる。対戦相手となるニックスは、相手を平気で銃で撃ち殺す強者……と、マイルズの命がけの攻防は過激を極め、まさにダニエル・ラドクリフが喜んで出演しそうな作風。しかしマイルズは気弱な性格で、ゲーム会社での仕事や恋人との関係もイマイチの「さえない」系。そんな彼が、強敵を相手にサバイブする姿に、意外なほど感情移入してしまうのだ。
両手に銃が装着したままなので、当然のごとく食事からスマホの操作、ドアの開閉、トイレまで、日常行動がすべて困難!それをひとつずつクリアしていくマイルズの必死さには、爆笑&苦笑の連続で、このあたりのコミカルな味わいは、ハリー・ポッター役を含めてダニエルの出演作のなかでは異例かも。きわどいギャグも盛り込まれ、必死になればなるほど笑える役どころなのだが、ダニエルが切羽詰まった表情ながら、楽しんで演じているように見えるのが、やけに愛おしい。
過激な公開格闘ゲームということで、ハードなアクションも用意されるが、ダニエル・ラドクリフはここでも才能をマックスに発揮する。ハリー・ポッターの時代からアクションに関しては十分なトレーニングを積み、ブロードウェイのミュージカルでは華麗なダンスで観客を魅了してきた彼は、じつは「肉体派」。さえないマイルズが、全力で逃走し、無敵の刺客とも渡り合うシーンに、ダニエルのアクション俳優としての能力を実感できるはず。
そして、「スキズム」の視聴者たちが、絶対的に不利なマイルズの踏ん張りに熱狂していくプロセスは、気弱そうに見えた少年が、魔法使いの世界の救世主へと成長するハリー・ポッターの運命と重ねることも可能で、この『ガンズ・アキンボ』は、俳優ダニエル・ラドクリフのひとつの集大成として、心から楽しめるのである。
文/斉藤博昭
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