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終末期治療と人間の尊厳に迫る『痛くない死に方』…東京都日野市が創出する重厚なドラマが心を揺さぶる

コラム

終末期治療と人間の尊厳に迫る『痛くない死に方』…東京都日野市が創出する重厚なドラマが心を揺さぶる

長野の熱い言葉が印象的な居酒屋「呑みどころ・さくら」

自身の診断のなにが問題だったのか?思い悩む河田が長野に師事を乞うた居酒屋は、川崎街道沿いにある「呑みどころ・さくら」が選ばれた。柄本の妻であり、奥田の二女でもある安藤サクラの名前と同じだったことも撮影場所に選ばれるポイントになったらしい。

この居酒屋で、河田は長野から「病院からの診断情報は疑ってかかれ。カルテではなく、(患者)本人を見ろ」という、在宅医として今後の指針となる言葉を投げかけられる。この言葉の意味を知るため、河田は長野が患者を看取りに行く現場に同行するのだが、この患者の家に選ばれたのが大貫の自宅だったそうだ。

居酒屋「呑みどころ・さくら」が選ばれたのは、安藤サクラと同じ名前だったのがポイント?
居酒屋「呑みどころ・さくら」が選ばれたのは、安藤サクラと同じ名前だったのがポイント?[c]「痛くない死に方」製作委員会

柄本佑の役者としての気概を感じた看取りのシーン

ここでは、柄本と奥田、訪問看護士の中井を演じる余、大往生するおばあちゃん役の女優に加えて、その親族を演じる15人のエキストラが一堂に会することに。実はこのエキストラには、大貫の家族4人のほか、親族や友人などが参加している。ちなみに、おばあちゃん役の女優は奥田の大ファンで、セリフや動きはなかったものの今回の共演をとても楽しみにしていたのだとか。劇中では、亡くなった彼女を河田と長野、そして親族らが囲んで記念撮影をするシーンがあるのだが、無事にOKが出たあと、ベッドから起き上がってもう一度Vサインをしながら写真に収まり、奥田にサインをしてもらったというほほえましいエピソードも。

患者やその家族と親身に接する河田の先輩、長野浩平役の奥田瑛二
患者やその家族と親身に接する河田の先輩、長野浩平役の奥田瑛二[c]「痛くない死に方」製作委員会

大貫が柄本や奥田と初めて会ったのはこのシーンだったのだが、2人のそれぞれの空気感の違いが強く印象に残っているという。やさしく穏やかな奥田に対し、柄本は言葉数が少なく、表情も変えずどこか取っつきにくい雰囲気があったそうだが、これにはある理由があった。

上述の通り、この時の河田は自身の診断の甘さを指摘されたことに動揺し、間近で長野の亡くなった患者や親族への接し方を見て、これまで思い描いていた在宅医の在り方が崩れ、大きな衝撃を受けていた。完成した映画を観てこのことに気づいた大貫は、撮影中以外でも役に入り込んでいた柄本の俳優としての気概を感じたと振り返っている。

少子高齢化と核家族化が進む現代社会。医療の進歩に伴い、かつては難病と言われた病気の完治や延命治療も可能になった。一方で、人間の尊厳や死に方を選ぶ自由も叫ばれている。誰にとっても他人事ではない、この難しいテーマを心揺さぶる重厚なドラマとして映像化した『痛くない死に方』。撮影のおもな舞台となった日野市の存在も感じながら、大切な人や自分自身にいつかは訪れる終末期について考えてほしい。

文/平尾嘉浩


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