9年ぶりのタッグ!『騙し絵の牙』吉田大八監督、松岡茉優に絶大な信頼感「彼女の演技は予想を簡単に超える」
「大泉洋さんの現場をまとめ上げる掌握力を目の当たりにしました」(松岡)
――大泉さんと松岡さんとの掛け合いのシーンも印象的でしたが。
吉田「大泉さんと松岡さん、2人とも視野が広いです。普通の俳優なら見えないところまで見通したうえで、必要なものと不必要なもの、ちゃんと取捨選択してカメラの前に立っているという、演出する側からすれば怖いタイプの俳優です」
松岡「そんなことないです。全然見えてないですよ(苦笑)」
――松岡さんは、大泉さんと共演してみていかがでしたか?
松岡「大泉さんの現場をまとめ上げる力は、テレビを見ていてもひしひしと感じていましたが、今回の現場で目の当たりにした感じです。劇中で編集長の速水さんが雑誌トリニティについて『今後はこうします!』とテキパキと指示するシーンはまさに圧巻でした」
――速水はカリスマ性をまといつつ、浮世離れしたキャラクターになりすぎていないというさじ加減もすばらしかったです。
吉田「大泉さんとはクランクイン前に、時間をかけて話し合い、目指すべき速水像について共有できていました。大泉さんは絶対にわかったふりをしないし、僕も話せるならとことん話したいタイプなので、非常にやりやすかったです」
――高野は、速水の部下として大奮闘していく役柄ですが、どんな点に気をつけて演じましたか?
松岡「私たちの世代から見れば、新人の高野が言うことはそれほど暑苦しくないし、間違っていないとも思えます。でも、私が演じることで、ただの若気の至りに思えて、高野の純粋な気持ちが見えなくなっては絶対にダメだと思いました。だから、自分はこういうふうに演じたいという欲は、一切考えないようにしました」
「希望のようなバトンを渡せる映画に」(吉田)
――監督は、松岡さんの俳優としての魅力をどう捉えていますか?
吉田「彼女の演技はこちらの予想を簡単に超えつつ、絶対に変な着地の仕方はしないという安心感があります。それは『桐島~』の頃から感じていて、現場のペースをいい意味で作ってくれるんです。今回もそれを期待して、思いきりやってもらいました」
――実際に、今回の高野は、作品における誠意みたいなものを担っている気がしました。
吉田「そうですね。高野に託したものを、松岡さんがちゃんと受けとめて返してくれました。すべての登場人物にはそれぞれ対立する正義があって、ぶつかりあえば必ず誰かは敗れていく。でも最後には、わずかでも残る希望のようなバトンを、観客に渡せる映画になっていたらいいなと思いました」
――松岡さんは、今回のヒロインとしての現場はいかがでしたか?
松岡「最初から最後まで吉田監督がすごく信頼してくださって、本当にうれしかったです。今回は大事な役を託していただいたけど、今後もまた監督に呼んでいただけるのであれば、その時も絶対に監督をがっかりさせたくないとも思いました。でも、ヒロインで呼んでいただくのは、もしかしたら最初で最後なのかもしれないし」
吉田「なに言ってるの(笑)。逆に僕のほうこそ、松岡さんにオファーして出てもらえるような映画を作り続けられないと。そこは彼女が感じている危機感と同じですよ。でも今後も、お互いにそういうヒリヒリ感を楽しめる間柄でいたいです」
松岡「私だけではないと思いますが、吉田組に参加できるのなら、ほんの一瞬映るだけの役でもいいんです。ただ、そのためには自分自身が様々な経験値を上げておかないといけないですよね。だから今後ももっと、視野を広げて、頑張っていきたいです」
取材・文/山崎伸子