容赦ない暴力と惨劇…韓国ノワール『楽園の夜』に異色SF『スペース・スウィーパーズ』まで、Netflixで知る韓国映画の最新系
先日の第93回アカデミー賞で『ミナリ』のユン・ヨジョンが韓国人俳優として初めて演技賞を受賞するなど、近年、世界的に大きな存在感を示している韓国の映画人たち。Netflixでも、そんな韓国勢の才能を感じられるユニークなオリジナル映画が多くリリースされているので、ここで注目作をチェックしていきたい。
容赦ない暴力と悲劇が繰り広げられる“ザ・韓国ノワール”『楽園の夜』
胸が締め付けられるような青春映画から、スカッとする痛快なアクションまで、どんなジャンルでも良作を生みだしてきた韓国映画界。その中でも多くの人が真っ先にイメージするジャンルが犯罪モノではないだろうか。思わず目を背けたくなるような情け容赦ない暴力描写に、救いのないような重い展開を描いた作品は世界で高く評価されてきた。
なかでもマスターピースと言えるのが、韓国で青少年観覧不可(19歳以上観覧可)でありながら観客動員468万人を超える大ヒットとなった『新しき世界』(13)。「インファナル・アフェア」シリーズを思わせるヤクザ組織への潜入捜査を描いたこの作品は、ハリウッドでのリメイクも決定するなど成績と評価を両立している。
そんな傑作を生みだしたパク・フンジョン監督が、Netflixとタッグを組んだ作品が『楽園の夜』だ。パク・フンジョンと言えば、『新しき世界』のほか、『The Witch/魔女』(18)や『V.I.P. 修羅の獣たち』(17)など、バイオレンスな作品を手掛けてきた韓国ノワールの巨匠。『楽園の夜』でもヤクザ同士の抗争から巻き起こる惨劇を描いている。
敵対組織から引き抜きの声がかかるほどすご腕のヤクザ、テグはどんな相手にも表情一つ崩さないが、病弱な姉の幼い娘にはデレデレ。常に2人のことを気にかけていたが、そんな矢先、姉と姪の命が何者かによって奪われてしまう。復讐の鬼となったテグは敵対組織のトップを襲撃し、済州島に身を隠すことに。そこで余命わずかな女性ジョエンと絆を築いていくが、本土では抗争の鎮静化を図ろうとボスのヤン社長がテグを裏切ろうとしていた。
北野映画を思わせるような青みがかった画面、人体を躊躇なく貫いていく小刀の無慈悲なまでの切れ味、悲劇や裏切りが重なるダークな展開など、これぞノワールというべき王道を、洗練された映像でどこまでもクールに描いていく本作。かと思いきや、終盤に差しかかるにつれ、唐突な笑いどころや恋仲になりきらない男女のリアルな距離感、感情剥き出しになるキャラクターなど、それまでのドライなテイストが崩れ出していき、グッと熱を帯びていく。そしてその先に待ち受けるクライマックスとは…。クールなだけではない、執念やしつこさ満載の韓国ノワールの最先端というべき地獄絵図なラストは必見だ。
韓国初と言われる宇宙SF『スペース・スウィーパーズ』
これぞ韓国映画という作品のあとは、逆にあまりイメージがなく、韓国初の宇宙を舞台にしたSF映画と言われている『スペース・スウィーパーズ』を紹介したい。
人間社会から隔絶されたオオカミ少年と手を差し伸べる少女の恋を綴った『私のオオカミ少年』(12)や、事件解決率99%を誇る探偵が過去の因縁に挑むアクションコメディ『探偵ホン・ギルドン 消えた村』(16)など、ジャンルレスな作品づくりを続けるチョ・ソンヒが監督を務める本作。
砂漠化や大気汚染によって地球に人類が住むことが困難になり、一部の金持ちだけ宇宙空間に作られた居住地に暮らすようになった近未来。宇宙ゴミの回収を生業とする宇宙船ビクトリー号のメンバーだが、荒々しい生き様から貧乏生活を余儀なくされていた。そんなある日、大量破壊兵器だという子ども型ヒューマノイドのドロシーを発見した船員たちは、危険な取引で大金を得ようともくろむ。
『お嬢さん』(16)のキム・テリをはじめ、ドラマ「ヴィンチェンツォ」も話題のソン・ジュンギ、『LUCK-KEY/ラッキー』(16)のユ・ヘジン、『エクストリーム・ジョブ』(19)のチン・ソンギュなど、実力のある俳優が名を連ねており、彼らの演技は突飛な物語に魅力をもたらしており、安心して観ることができる。
個性豊かな宇宙のはみだし者たちが心を入れ替え危機に立ち向かう物語や、お金持ちが悠々自適に暮らすコロニー、貧しい者が住みつく多国籍感とディストピア感にあふれるスラムといったルックや設定など、あらゆるSF映画のいいところをミックスしたような作品となっており、観ていて楽しくないわけがない!
さらに、宇宙ゴミというテーマや船員のロボットに関するLGBTQ的な要素など、今日的にアップデートされた描写も多い。見たことあるようで見たことないフレッシュな1作だ。
ジャンル問わず良作を生みだしている韓国映画の地力を、Netflixで楽しめるこれら2作から感じ取っててほしい。
文/サンクレイオ翼