『ニュー・シネマ・パラダイス』に『ラ・ラ・ランド』…『映画大好きポンポさん』に込められた名作映画のスピリット
何十人ものスタッフ、キャストが集まり、目標に向かって突き進む映画の制作現場。スケジュールの遅れや予期せぬトラブルなど、時にそこでは映画本編に負けないくらい波乱のドラマが繰り広げられている。劇場アニメ『映画大好きポンポさん』(6月4日公開)は、そんな映画の舞台裏を描いた青春ストーリーだ。
映画制作会社ペーターゼンフィルムを率いる若き天才プロデューサー、ポンポさん(声:小原好美)のアシスタントとして映画作りを学ぶ青年ジーン(声:清水尋也)。新作映画『MEISTER』の監督に突然指名された彼は、戸惑いながらも全力で映画作りに取り組んでいく。
原作はイラスト投稿サイト「pixiv」で公開され、のちに単行本化された杉谷庄吾【人間プラモ】の人気コミック。アニメ制作会社に所属している杉谷が、深夜アニメ用に作ったボツ企画を自身でコミカライズしたものだ。
物語の舞台は架空の映画の都、ニャリウッド。山を見上げればニャリウッドサイン、足もとにはレジェンド級のスターやスタッフの名が刻まれたウォーク・オブ・フェーム(星形ではなくネコ形)が敷き詰められた景観はハリウッドそのもの。実在の俳優や監督を思わせるネーミングなど遊び心が満載だが、ほかにも名作&傑作映画のオマージュやリンクが数多く詰め込まれている。映画ファンならより深く楽しめる、『映画大好きポンポさん』に込められた映画愛を見てみよう。
『ラ・ラ・ランド』を思わせる、夢に向かうヒロインのひたむきさ
本作のヒロインは、ポンポさんに見いだされて『MEISTER』のヒロインに抜擢された女優の卵、ナタリー(声:大谷凜香)。スターになるためニャリウッドにやって来た彼女は、バイトのかたわらオーディション会場を駆け回る日々を送っていた。成功を夢見てショウビズ界にやってきた若者たちを描くサクセスストーリーは人気ジャンルの一つだが、ひたむきなナタリーの姿は『ラ・ラ・ランド』(16)のヒロイン、ミア(エマ・ストーン)のよう。傷つきながらもブレない生き方だけでなく、祖母のあと押しで女優への夢を紡ぐバックグラウンドも似ている(ミアが女優を目指した理由は、おばと雪とセーヌ川)。
また、ジーンとナタリーの運命的な出会いも『ラ・ラ・ランド』を思わせるものだ。渋滞中のフリーウェイで出会ったミアと若きピアニストのセブ(ライアン・ゴズリング)。その後、ストーリーはミアの視点で展開していくが、ある晩、レストランで偶然セブと再会した瞬間に映画の視点が切り替わり、セブ側の出会いから再会までが描かれた。本作のジーンとナタリーもその構成に沿っており、最初はジーン、次はナタリーの視点で偶然の出会いから再会までが語られる。
セブと再会する直前、ミアが歴代の映画スターが描かれたハリウッド名物の壁画「You are the Star」の前を通りがかるカットがあるが、ジーンの監督作『MEISTER』のなかにも似たシチュエーションが出てくるなど、『ラ・ラ・ランド』を彷彿とさせるモチーフにはニヤリとするはずだ。