映画スタジオに1970年代のフランスを再現したら、いくらかかる?費用と時間を試算してみた!
映画製作の技術を応用して、行きたい時代と場所を広大なセットに再現する。そんな贅沢な体験型エンタテインメントサービスを題材にしたロマンティックコメディ『ベル・エポックでもう一度』が公開中だ。利用者が希望する世界を細部にいたるまで具現化するという作業は、監督が望む世界観を作り上げる、映画の美術の仕事と重なるところが多い。
もしも、本作に登場するようなサービスが日本に存在したとして、主人公がオーダーした設定を再現する場合、はたしていくらぐらいの費用が必要なのか?そんな疑問を解決するため、松竹撮影所の美術デザイナー、西村貴志さんとラインプロデューサーの山田彰久さん、小松次郎さんを直撃。3人に作成してもらった“見積書”を基に、映画製作現場のリアルを紹介していきたい。
“1970年代フランスのカフェ”を再現するとしたら…?
職を失い、妻から家を追い出された、元売れっ子イラストレーターのヴィクトル(ダニエル・オートゥイユ)。いきなり人生が白紙になってしまった彼は、息子からプレゼントされた体験型エンタテインメント<タイムトラベルサービス>を試すことにする。ヴィクトルは「運命の女性と出会った、1974年5月16日のリヨンのカフェ」をリクエストするのだが…。
「この映画は、我々のような映画を作っている立場の人間からすると、すごく身近な題材でした。もしかしたら、こんな仕事を我々もできるのかもしれないな、やったらどうなるかな?と思いながら、興味深く拝見しました。ただ、これをビジネスとしてやるとなると、かなりお金がかかりますね(笑)」と話すのは、美術デザイナーの西村さん。セットから大道具、小道具、衣装、メイクなど、映像に映るすべてのものの美術プランを作ることが美術スタッフの仕事だ。
一方、ラインプロデューサーは、その作品で決まっている予算内で、美術部や撮影部など、各部署にお金の割り振りをしていく。山田さんは「予算は作品の規模によって違いますね。例えば、全体で1億円の予算があるとすると、美術さんにかける予算はそのうちの何%か、というのが総予算に対してだいたい決まってしまいます。予算が足りない場合は、特にどこに力を入れるのか、ということを監督と話し合って、お金をかけるところ、かけないところを決めていきます」と話す。
劇中では、カフェやホテル、レトロな街並み、パーティー会場といった、いくつもの舞台が登場するのだが、今回はメインとなるカフェに絞り、1970年代の空気感を再現するために必要な費用の見積もりを出してもらっている。
若かりし頃の主人公ヴィクトルが運命の女性と出会ったのは、1974年のリヨンのカフェ。劇中のシーンから推算すると、このカフェを含めたリヨンの街のセットを組むには、「都内の撮影スタジオの大きいステージ(250坪、826m2、天井高9m)は必要になりますね」と西村さん。
見積書によるとこのスタジオを借りる場合、セットを組むための建て込みと飾り付けの期間にだいたい350万円、撮影本番、つまり利用者が実際にサービスを体験する時に30万円の費用が必要となっている。山田さんは「このスタジオでは建て込みと飾りに1日25万円、撮影本番は1日30万円と決まっています。建て込みと飾りのところは、その作業に必要な日数をかけています」と計算。
今回は建て込みに必要な日数として2週間、作業開始から10日目くらいに塗装が入るケースを想定している。劇中では、ヴィクトルとサービス会社の最初の打ち合わせから1週間ほどでセットが完成していたが、「実際はかなり厳しいですね。打ち合わせの後、図面を描いて、予算のやり取りをして…となると、デザインだけでも2週間くらいはかかるので。建て込み期間を入れると、やはり全体で1か月間ほどは必要になります」と西村さんは推測する。