映画作りで最も大切なこととは?宇野維正が称賛する、『映画大好きポンポさん』の勇気と攻めの姿勢
それでも喝采を叫ばずにはいられない理由とは?
と、ここまで散々御託を並べてきたが、それでもなおこの『映画大好きポンポさん』は抗しがたい魅力を放っている。たとえそれが古臭い考え方だと見なされるようになったとしても、ポンポさんが語るように、「映画は女優を魅力的に撮れればそれでOK」だし、「泣かせ映画で感動させるより、おバカ映画で感動させるほうがかっこいい」し、「映画を生かすも殺すも編集次第」だし、90分で終わる映画の潔さは美しい。スクリーンを見上げながら、自分は心のなかでポンポさんの言葉に「そうだそうだ!」と喝采を叫ばずにはいられなかった。
その上で、本作は映画を作る上でも、映画を観る上でも、きっとこの先も古びることのない普遍的な一つの真理、「映画のなかに自分を見つけること」に向かって突き進んでいく。ややもすると、単なる「キャラクターへの感情移入」に矮小化されてしまいがちなその真理。おそらく、登場人物にそのことについて語らせることにはとても勇気が必要だったはずだし、さらにアニメーション表現でそのことに説得力をもたせるためには映像のアイデアとしてもギリギリのところを攻める必要があったはずだ。
その勇気と攻めの姿勢において、『映画大好きポンポさん』は観客にとって特別な映画体験になるだろう。音楽(劇伴も挿入歌も)などのディテールにおいて「惜しい!」と思うポイントもあるにはあったが、過去に様々な国で作られてきた忘れ難い「映画についての映画」たちの系譜に、2020年代の日本でしか生み出し得ない、このチャーミングな作品が加わったことを素直に祝福したい。
文/宇野維正
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